50代、60代で定年退職や早期退職などで、介護業界に転職を検討される方も多いと思います。
私も同じ経験をしていますので、私の経験談が参考になればと思い記します。
2005年に「阪神タイガース優勝祝勝会」を老人ホームで開催しました。
当時、有料老人ホームの施設長でした。
個人的な嗜好で開催したのですが、意外と好評でした。
当初は意識していなかったのですが、「3つの介護予防効果」がありました。
2005年当時の時代背景
混在型(健常者と要介護者が入居)の有料老人ホームで施設長をしていました。
2000年代の話なので混在型の事例がなく、ネット上にも情報が少ない状況でした。
要介護の方と健常の方が一緒に暮らす(混在型有料老人ホーム)というモデルで運営していました。
今となってはそれがかなり困難を伴うことはわかってきました。
当時は介護保険制度が導入され、措置制度から契約制度に移行した直後です。
混在型有料老人ホームは新しいモデルとして各施設がしのぎを削っていました。
高齢期を迎えると環境の変化についていけなくなります。
たとえば、電灯のスイッチの位置が変わっても覚えられません。
スイッチを探すのも面倒になり、暗くなっても電灯を点けなくなる。
次第に無気力になり老化が進行する。
こういう悪循環が多いものです。
混在型有料老人ホームは、高齢期の環境変化をできるだけ避けようという意図です。
健常のときから有料老人ホームに入所します。
そのまま住み慣れた施設(居室)で要介護を迎える、というモデルでした。
言うは易しですが、他施設の施設長も混在型有料老人ホームの難しさを痛感していました。
研修などを通じて横のつながりもあり、事例の情報交換などもおこないました。
当時はまだ介護予防の概念も定着していませんでした。
介護保険は、要介護状態になれば介護するためのもの、という対処療法的に理解されていました。
阪神タイガース祝勝会のようなイベントに介護予防効果があるというのは後に知りました。
ただ、老人ホームの入居者の皆さんと一緒に楽しみたい、という一心で開催しました。
現代における介護施設のイベントやレクレーションは余暇対策ではありません。
50代、60代で介護業界に転職を検討される方は、覚えていただいて損が無い話です。
介護施設のイベントやレクレーションは介護予防サービスです。
要介護状態になるのを防ぎ、要介護状態の方も悪化するのを防ぐ効果があります。
2005年当時の阪神タイガース
有料老人ホームの施設長であった2005年に阪神タイガースがリーグ優勝を果たしました。
老人ホームで「阪神タイガース祝勝会」を開催することにしました。
当時は打者では金本が4番で、矢野、赤星、浜中、鳥谷などが活躍しました。
打球がとても速いシーツという外人も強く印象に残っています。
井川慶、下柳剛、福原忍などが先発投手で活躍しました。
伝説のJFK(J:ジェフ・ウィリアムス、F:藤川球児、K:久保田智之)が7・8・9回を抑えます。
いわゆる岡田監督の「勝利の方程式」が確立した時代でした。
それまではのプロ野球は先発が崩れる(打たれる)まで投げるのが常でした。
岡田監督時代から、リリーフ(先発の途中降板)が当たり前になりました。
7回を迎えたらJFK(実際はKJFの順で登板することが多かった)が抑える。
6回までリードしていると必ず勝つので、7回以降は阪神ファンが歓喜していました。
50代、60代で介護業界に転職を検討される方は、すでに高齢者とこのような思い出を共有しています。
2003年、2005年リーグ優勝の黄金期
阪神タイガース祝勝会の雰囲気を盛り上げるために自分のハッピを持参しました。
2003年も優勝しました(阪神の黄金期)。
「2003年」の優勝ハッピの「3」の文字の上に「5」を手書きで書いて貼りました。
「これから毎年優勝するからこれずっと使えます」というネタでした。
優勝記念特番を一緒に観るためのビデオとテレビを準備しました。
ビデオはVHS、テレビはブラウン管の29型(それでも当時では大型)でした。
カラオケもセットしました。
カラオケは、業者が来てバージョンアップ(新曲追加)するタイプでした。
それでも高齢者にとっては自分が歌いたい曲は入っています。
何よりこの日は「六甲おろし」が入っていればよかったのです。
当時はノンアルビールはあまりメジャーではなく手に入らなかった?ようでした。
ペットボトルのお茶、ジュースなどのソフトドリンクを準備しました。
阪神タイガース祝勝会 3つの介護予防効果
阪神ファンでない方も参加できる形にしました。
私も嬉しかったので喜びを分かち合いたいという気持ちでした。
VHSビデオを用意して「阪神タイガース優勝の軌跡」という自宅で録画した番組を流しました。
でも、それをじっくり見るという雰囲気にはなりませんでした。
回想法
当時の高齢者の阪神タイガースの話題といえば、誰しもが知る話題に終始しました。
- 江夏のオールスターでの9者連続三振 (1971年)
- 田淵の高くあがるホームラン (1970年代)
- バース・掛布・岡田のバックスクリーン3連発 (1985年)
など、昔話に終始していました。
昔を思い出すこと、それを話すことは「回想法」と言われます。
「回想法」には認知症予防効果がある、ということは当時も言われていました。
嚥下訓練、誤嚥防止
開催中何度か、みなさんで「六甲おろし」を大合唱しました。
最近ではカラオケを歌う効果が指摘されています。
口を動かすことで口の周りの筋肉のトレーニングになります。
口の中の唾液の量も増えるという研究結果もあります。
口を動かして唄うことは「嚥下(えんげ)訓練」になります。
また、「誤嚥(ごえん)防止」効果もあるとされています。
※嚥下(えんげ):食べ物や飲み物を飲み込むこと
誤嚥(ごえん):食べ物や飲み物が誤って気管に入ること
高齢者のうつ予防
高齢者は老化による身体の衰えや孤独感を受け入れられなくなるケースがあります。
これらは重症化すると「高齢者のうつ」という症状に発展してしまいます。
阪神タイガース祝勝会では、古くから阪神タイガースファンに伝わるコールを叫びました。
「勝った、勝った、また勝った、勝たんでもええのにまた勝った!」
大きな声を出すと「肺の運動」にもなります。
仲間と楽しんで、気持ちが明るくなると「高齢者のうつ」の予防になります。
2005年のことはわからなくても、昔話と阪神ファンの慣習で大きな効果が得られました。
50代、60代で介護業界に転職を検討される方は、是非とも介護予防について知っておいてください。
介護予防効果は続く
要介護者と健常者が同居する混在型の有料老人ホームでは「終の棲家(ついのすみか)」です。
混在型の老人ホームでは、人生の終盤の生活に高い理想を持っておられる方々が多くおられます。
イベントのたびに入居者から手厳しいご意見をいただくのが常でした。
このたびもある程度の厳しいご意見は覚悟していました。
しかし、翌日もみなさんの表情は明るく好意的でした。
「昨日は楽しかった、ありがとう」と言っていただきました。
ガチガチの広島ファンの方も参加されていました。
「たのしかった、ごくろうさん、広島の時もよろしく頼むよ」と声をかけて下さいました。
クリスマス会では「特定の宗教の行事を開催するのはいかがなものか?」というご意見がありました。
選挙カーが演説に来た時は「施設は政治的に中立であるべき」というご意見がありました。
施設のイベントの寸劇で施設長の私が自ら「ボケ役」をやりました。
すると「施設長はボケなくていい」など、かなり切り込んだご意見もいただいておりました。
今回も苦言は覚悟していたのですが、ネガティブなご意見は一切ありませんでした。
阪神タイガースが地域で絶大な人気があるのです。
まとめ
介護施設のイベントやレクレーションは介護予防サービスです。
施設長は公平なサービスを提供することが求められます。
みなさんが楽しむ、気持ちを明るくすることで、介護予防やリハビリ効果が得られます。
阪神タイガースに偏ることで、他チームのファンの方からのバッシングを懸念していました。
これまでもイベントのたびに入居者から手厳しいご意見をいただくのが常でした。
しかし、阪神タイガース祝勝会はわたしにとって初めて波風が立たないイベントとなりました。
・阪神タイガースに限らず、プロ野球人気が高いこと。
・シーズンが終わったという野球ファン共通の区切りがあったこと。
・同じ思い出(昔話)が共有できたこと。
などが顧客満足につながったと分析しました。
これまで施設長として、偏らずにバランスを保ってきました。
この日だけは、わたし個人の喜怒哀楽を表出しました。
「老人ホームでは『最期を飾る人間付き合い』がしたい」常々思っていました。
阪神タイガース祝勝会で自分をさらけ出すことで、その思いが実現できたという経験です。
探すのをやめたときに見つかることもよくある話、でした。
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