【50代、60代の転職】認知症の方に非常ベルを押された経験談

退役消防車(岡山) 経験談(雑談)
退役消防車(岡山)

50代、60代で定年退職や早期退職などで、介護業界に転職を検討される方も多いと思います。
私も同じ経験をしていますので、私の経験談が参考になればと思い記します。

施設長と介護スタッフ

ここでは「認知症の方に非常ベルを押された経験談」を記します。
結論から言えば、たくさんの消防車が緊急出動しもおとがめなし、でした。

非常ベルを押した認知症入居者

要介護者専用の有料老人ホームで施設長をしていました。
2010年代半ばのことで、現代とは事情が異なる点があるかもれませんが、あらかじめご了承ください。

日常生活動作は自立されている認知症の方が入居されていました。
認知症にも個人ごとに程度の差が大きいのですが、この方はかなり進行されていました。

困っている認知症高齢者

個室の居室から出てこられて施設の廊下を散歩することが日課の方でした。
短期記憶はほとんどなく、判断力も著しく欠如されている方でした。

50代、60代で介護業界に転職を検討される方は、このような事態にもなりうる、とご理解ください。

非常ベルが鳴る

夜の10時ころでした。
私は業務でまだ老人ホームの1Fの事務所に残って仕事をしていました。

突然、非常ベルが鳴り響きました
自動音声で「火事です、火事です」などと全館に放送されます。

非常ベルが鳴る老人ホーム

事務所の表示板で3Fの表示ランプが点いています。
すぐさま3F介護スタッフから内線電話がありました。

「〇〇さんが非常ベルを押されました。火災ではありません、誤操作です」ということでした。
事務所にいた他の職員に現地確認を指示しました。

同時に事務所の非常通報用の電話機(消防署とのホットライン)が鳴りました。
「はい、△△ホームの◇◇です。認知症の方が非常ベルを押されたようで現地確認中です」


非常通報受話機が鳴る
(非常通報装置写真:東京防災設備保守協会HPより引用)

ホットラインでつながった消防署に、まずこのように応答しました。
すぐさま、3Fに走って上がった事務所スタッフより内線電話がありました。

「火災ではありません。〇〇さんが『ボタンを押した』と言われています。スタッフも見ていました」
とのことでした。

立ちすくむ〇〇さんと青ざめる介護士

消防署とのホットラインはつながったままでした。
「誤作動に間違いありません、消防車に来ていただく必要はありません」

と消防署に伝えました。
すると消防署の方より「いや、もう出動しています、現場を確認させてください

そういわれると、遠くの方から消防車のサイレンの音が聞こえてきました。
「他にも認知症の方が多くおられ、パニックになるので館内放送は切ってもよろしいでしょうか?」

「それは切ってもらっても結構です」
と言われ、館内放送を切るボタンを押して音声を止めました。

事務所の職員も現地確認から事務所に戻ってきました。
「火災はありませんでした、〇〇さんが真っ赤な顔で呆然と立っておられました」

とのことで、その情報もそのまま消防署に伝えました。

消防隊到着

そう話している間に消防車のサイレンの音が近づいてきて、ほどなく消防隊が到着されました。
「大変なことになってしまったなぁ、叱られるだろうなぁ」と思いました。

到着した消防隊の方も、事情は道すがら聞いておられたようで、落ち着いて来られました。
「認知症の方がボタンを押されたのですか?」

緊急出動で到着した消防士

「はい、すみません、こんなに来ていただいて」
気が付くと向かっている消防車も併せて十数台の消防車がこちらに来ていました。

消防車3消防車4消防車2

「それはいいです。我々は非常ベルが鳴ると同時に必ず現地に向かいますから
でも、何もなくてよかったです。一応現場を確認させてください」

「はい、ありがとうございます」と言って3Fの現場をご案内しました。
3Fで非常発報した非常ベルの横には、〇〇さんが真っ赤な顔で呆然と立っておられました。

〇〇さんはかなりの認知症で判断能力も著しく劣る方です。
しかしそのご様子から「やらかした感」が強く、短期記憶が消えていないことが判りました。

「押す」と書いてあるボタン

消防隊とともに、廊下に立ちつくす〇〇さんと会いました。
「〇〇さん、これを押しましたか?」と消防士が聞かれました。

やさしく確認する消防士2

「押した…『押す』と書いてあるから押した…ほら『押す』と書いてある」と応えられました。

いつもの元気が全く無く、しおらしい態度でした。

非常ベルを押した認知症高齢者

認知症の方にとって「押す」と書いてあるボタンを押すのはとても素直な行動です。
私は「それは仕方がないな」と心の中で納得しました。

ボタンを押すと突然「ジリリリ~」、「火事です、火事です」と、大きな音が鳴ります。
すると周りにいた多くの人が騒ぎ出した、という状況だったようです。

「押した」という短期記憶だけはしっかりと残っていました。
自分が大きな失敗をしたと認識され、強烈な印象があったものと思われます。

再発防止法

消防隊からはお叱りの声はありませんでした。

「これがきっかけになって、非常ベルを隠したり、押せなくするようなことは絶対にしないでくださいね、非常ベルを隠すと違法になります。認知症の方の誤操作で消防隊が出動するのは合法です。そこを間違えないで、これからもこのまま『よく見えて押しやすい非常ボタン』を守ってくださいね」

非常ベルのルール説明をする消防士

そう念を押して消防隊は帰られました。

認知症の〇〇さんが2度と誤操作しないように、見守りを強化しました。
気の毒ですが時々話題にあげて、〇〇さんの記憶を呼び起こすようにもしました。

消防隊のご指導に沿って、非常ベルのボタンには何も対処しませんでした。

まとめ

私はその時がはじめてでしたが、その後別の施設で働いていて同じようなことがあったと聞きました。
消防法で定められた設備で、健常者には理解できます。

が、認知症の方は見当識障害があります。
「押す」と書いてあるボタンを見て「押す」という動作をすることは自然なことです。

「押す」と書かれた非常ベル

「誤操作のリスクはあっても法に従ってボタンを押しやすい状態で維持してください」
ということです。

緊急対応をしてくださった消防隊の方が穏やかに教えてくださったことに救われる思いがしました。

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