50代、60代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職しを検討されている方も多いと思います。
私は大手メーカーを希望退職し、複数の法人で、のべ十数年間、大型施設の責任者を経験しました。
介護業界には生え抜きの方も多く、転職組は門外漢でもあります。
他業種からの転身でも、営業経験があれば、その経験は生かせます。
介護施設の施設長は稼働率の向上という使命を負っています。
そのために施設長にも「営業センス」が必要です。
介護施設も入居者確保のため訪問営業を行っています。
訪問営業の慣行によって相手が「一番に思い起こす施設」(第一想起施設)になることです。
介護事業所の営業の特徴
もしも他業種で営業経験があれば、現場と顧客の間に挟まれたことはあると思います。
顧客の要望と現場でできることのギャップを埋めることは営業の仕事の一つです。
この点は他業種の営業と介護事業所の営業は共通します。
他業種の営業と介護事業所の営業が大きく違う点もあります。
住み分けを意識する
高齢者福祉業界は地域の連携で成り立っています。
他業種と違って「ひとり勝ち」はできないのです。
自施設が一番優れています、というスタンスでは地域から警戒されます。
「自施設はこういう方に適しています」と、住み分け提案が有効です。
横のつながり(口コミがつながる)
地域のケアマネ同士で横のつながりがあります。
施設の評判は、口コミで広がります。
施設の良し悪しは、営業秘密で独占するのではなく、地域のケアマネが共有します。
一つのミスや行き違いが地域に知れ渡ることもあります。
在宅継続が前提
要介護状態になっても在宅生活が基本です。
ケアマネの倫理観からは施設入所は「最後の手段」とされます。
施設入所を強く推すことは「モラルに反する」と受け止められかねません。
施設は「セーフティネット」で困ったときに利用してください、程度のスタンスが良いでしょう。
飛び込み営業OK
「飛び込み営業OK」はすこし語弊があるかもしれませんが、迷惑度は他業種と違います。
営業先は何らかの解決すべき問題を抱えているケースが多々あります。
- 老々介護が限界にきている
- 虐待が疑われている家庭がある
- もうすこしリハビリをしたいが病院の退院期限が迫っている
- 入院で衰えたので退院しても家で生活ができない
営業先はタイムリーな情報提供を歓迎します。
飛び込み営業で訪問しても、時間があれば会っていただけます。
訪問営業先の種類
病院
介護施設の場合は、病院が最も早く利用者を紹介いただける相手です。
何らかの疾患で入院され、退院後は身体能力の衰えに伴ってこれまでの生活ができなくなる。
退院と同時に施設入所する方をご紹介いただきます。
病院の窓口は「地域連携」という役割を担う部門があります。
一般的には「地域連携室」という名称です。
ご担当者は「相談員」です。
医療相談員、地域連携相談員、メディカルソーシャルワーカーなどの呼称が病院ごとにあります。
社会福祉士や看護師の資格保持者が担当されています。
大病院では構内案内を見て直接行くか、受付で聞くとよいでしょう。
病院は退院希望時期が明確なので、時期厳守です。
特に急性期病院の場合は入院期間が短いのでスピード対応が要求されます。
※病院の種類については別記事で触れます。
退院を担当される相談員は、退院を促進して病院のベッドを空けることが仕事です。
介護施設での受け入れが遅れたり、断ったりすると、入所問い合わせ件数が減ってゆきます。
営業としては、まず営業ツール、チラシなどをもって定期的に病院の「地域連携室」に顔を出します。
一日時間があれば十数軒訪問できると思います。
アポなしで飛び込んでも、時間があれば会っていただけます。
先方も退院促進が仕事なので、介護施設の話を聞いておきたいという意識もあります。
ただ、相談員は仕事が忙しくスケジュ-ルが詰まっています。
経験上、15時以降、16時ころが比較的会っていただきやすいようです。
どうしても会いたい病院があれば、その時間に訪問します。
それまでの時間はその他の病院を回るとよいでしょう。
忙しくて会っていただけなければ、受付に資料を預けるだけでも効果はあります。
ちゃんと相談員さんに資料が渡って見ていただけます。
居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)
在宅で過ごす要介護者のケアプラン作成を担当するケアマネの事業所です。
介護保険上法の名称が「居宅介護支援事業所(きょたくかいごしえんじぎょうしょ)」となります。
一般的には「居宅(きょたく)」と略します。
居宅では、営業で訪問されることが多いから、突然の訪問には少し困っておられる傾向もあります。
新型コロナ流行を機に「訪問はご遠慮ください」と掲示されている事業所が多くなりました。
また、施設に入所するとケアマネとしてのご縁は切れるので、自分の顧客ではなくなってしまいます。
「困ったときは施設に頼みたいので情報は知っておきたい、でも積極的には勧められない」
このようなジレンマを抱えておられます。
経験上、小規模の居宅からは、あまり施設入所の紹介が無かったように思います。
通所サービスなどで付き合いがある居宅には、提供票の実績をもっていくと訪問できます。
できるだけ訪問機会を作って訪問するのが良いでしょう。
ケアマネは月に一回利用者や家族と面会します。
通所サービスを利用されている時の様子などの情報が必要になります。
居宅訪問時には必ず利用者の様子は把握しておいて、ケアマネに報告します。
日ごろ付き合いが無い居宅には、郵送などで定期的にごあいさつするのも一案です。
地域包括支援センター
地域の高齢者の総合的な相談窓口です。
おおむね中学校の校区くらいの範囲で、その多くは民間委託で設置されています。
地域包括支援センターのケアマネは要支援者を担当しているので、比較的軽度の方が利用者です。
現在担当している利用者がすぐに施設入所につながるケースは少ないです。
しかしながら、地域の問題解決も担っています。
虐待や家族(介護者)の入院などによる入所相談があります。
また、要支援だったけど入院してしまい、退院を機に施設入所という案件もあります。
地域ケアの中核なので口コミの発信力もあります。
地域包括支援センターは地域の高齢者が気軽に入れる雰囲気が必要です。
よって施設の訪問営業も比較的入りやすい雰囲気があります。
総合的な相談窓口という性格上、地域の施設の状況を知っておきたいというニーズもあります。
施設の訪問営業も快く対応してくださいます。
訪問営業先が求めている情報
50代、60代で営業経験がある方は訪問営業のコツもご存じと思います。
「先方が欲しい情報を持っていくと歓迎される」という点は他業種の営業と共通です。
大まかには以下のような情報ニーズがあります。
このニーズに織り交ぜてこちらが発信したい情報を盛り込んで営業に活用してください。
病院が求めている情報
病院では、退院が対象なので、医療対応に関する情報ニーズがあります。
あいまいな場合は持ち帰って回答でもOKです。
たんの吸引、胃ろう、点滴、インスリン注射、導尿、気管切開、夜間の看護師の勤務体制など、
医療対応に関する質問に答えられるように情報を持っておきましょう。
居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)が求めている情報
居宅介護支援事業所がほしい介護事業所の情報は以下のようなものです。
- 認知症の対応(困難事例の受け入れ可能レベル)
- 細かい要望への対応可否
- 最短でどのくらいで入所できるか
ケアマネが「困った」と追いつめられた場合のセーフティネットの役割に期待されます。
地域包括支援センターが求めている情報
地域包括支援センターでは、虐待や家族の入院など不慮の事態への対応があります。
「今日中の入所」などの緊急対応への協力姿勢の情報が欲しいところです。
私はこのように回答していました。
「『いつでもどうぞ』とは約束できませんが、状況に応じて検討します」
「年間で複数の受け入れ実績はあります」
実際にも年間数件の問い合わせがあり、対応するととても感謝されます。
セーフティネットの役割は似ていますが、居宅よりも緊急性が高いのが特徴です。
今日中に何とかしてほしい、という難易度の高い案件になります。
難易度と比例して施設の好感度を上げるチャンスでもあります。
まとめ
50代、60代で転職し、他職種で営業職の経験があればそのノウハウを生かすことができます。
基本に立ち返って、顔を合わせて覚えてもらうことから始めてください。
- 客先に頻繁に顔を出す、
- 自施設の強みを知る、
- 現場との良好な関係づくり、
- 約束を守る、
- 迅速に動くなど、
他職種の営業と基本の部分は何ら変わりません。
相手の仕事を理解し、有益な情報をもっていくことで、営業のハードルはぐっと下がります。
慣れるまでは病院を中心に訪問するのが良いかもしれません。
そしてこれらを進めるうえで組織の長としての求心力を高めていくことができます。
強引に進めることのネガティブな影響は、他職種の営業よりも大きいので自重してください。
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