私は大手メーカーを希望退職し、複数の法人で、のべ十数年間、大型施設の責任者を経験しました。
介護業界には生え抜きの方も多く、転職組は門外漢でもあります。
ただ、業界が変われども組織の長の仕事には、共通する部分があります。
門外漢だからこそ、気づく視点があります。
50代、60代で転職を検討されると、介護施設の管理職募集が目に留まると思います。
介護施設の管理職に転職を検討される方に向けて施設長のお仕事を解説します。
この記事では、顧客満足の一環として家族対応について触れます。
なお、家族に家族以外のキーパーソンを含むこととします。
基本的には顧客満足はスタッフがつくり出すものです。
すべてを施設長が対応するのではなく、施設スタッフに分担して対応してください。
なお、難クレーム、ハラスメントについては別記事で触れます。
施設長の課題は3つ
施設長の役割は、成果を出すための組織作り、ということに集約されます。
この役割を果たすために、施設長が重視すべき課題を大きく分けると3点です。
他業界の組織長と役割は同じです。
経営満足、顧客満足、従業員満足の3点です。
経営満足 → 利益向上、経営改善に寄与する。
経営改善、利益向上の唯一無二の指標が「稼働率」です。
定員に対して何パーセントの利用があるか、これを稼働率と言います。
一般的には毎月その月の平均値をもって評価します。
施設長の最大の使命は「稼働率の向上」です。
顧客満足 → 要介護者の生活の質の向上
前述の稼働率向上のために、顧客満足の向上があります。
顧客満足無しに稼働率が向上することはありません。
恒常的に「稼働率を高位維持」するためには顧客満足の向上に取り組む必要があります。
従業員満足 → 介護に携わる施設スタッフ(職員)の力を最大限引き出す
前述の顧客満足を作り出すのは、ほかでもない現場のスタッフです。
介護サービスの良し悪しは、形に残らず心に残るものです。
現場スタッフが、明るく、素直に、前向きに仕事ができれば、顧客満足は向上します。
顧客満足が向上すれば、稼働率も上がります。
つまり、施設長の3つの課題の中でも最も重要な課題は従業員満足です。
入所者家族対応ポイント6選(家族以外のキーパーソンを含む)
家族との親密なコミュニケーション
家族は利用者の生活を支える重要な相手です。
意思疎通が難しくなった要介護者の場合、要介護者の意思を代弁する役割もあります。
ご家族の主流は50代、60代の同年代の方です。
同世代の価値観や経験則にも共感が得られる面があります。
50代、60代で介護業界の管理職に転職される方には人生経験があります。
ご自身のコミュニケーション力を活かして家族と接する。
そうすれば、親密なコミュニケーションが築けます。
親密なコミュニケーションは、信頼関係につながります。
家族の想いを汲む
家族が介護施設に何を求めるか。
おおむね、要介護状態の自分の親などが、平穏な生活を送ることに期待されています。
家族は、施設職員よりは入所者への想いが強いと思っておられるケースがほとんどです。
その思いには一定の配慮が必要です。
家族の気持ちを差し置いて、施設側が利用者の気持ちを代弁すると信頼を損なうことがあります。
介護施設に勤務していると、家族よりも利用者のことが判るようになります。
家族が知る数年前の利用者と現状が大きく違う場合も往々にしてあります。
それは緩やかに伝え続けなければ、関係性が壊れてしまいます。
キーパーソンとは良好な関係を維持しなければなりません。
入所者の最期までデリケートな問題が生じるリスクを抱えています。
終末期、臨終、ご遺体・遺品の引き取り、原状回復などキーパーソンは不可欠です。
普段のコミュニケーションを大切にします。
体調不良、小さなケガ、気になる様子など、小さなこととやり過ごさずにこまめに連絡をします。
施設と家族が一体となって入所者の生活を支えているという考えを発信し続けましょう。
個別の事情に配慮する
お子様が無く、養子や甥や姪がキーパーソンになるケースもあります。
そういうケースでは、これまでに一度も一緒に暮らしていないことがあります。
50代、60代で介護業界の管理職に転職される方には人生経験があります。
デリケートな問題にも是々非々で公平、公正な対応が期待されます。
入所者と関係性が薄いキーパーソンのケース
病歴や治療歴、生活習慣などを家族に聞いてもわからないことも多々あります。
私の経験では、関係性が薄いがゆえにご本人の意思を明確に把握されていないケースがありました。
本人の意思が明確ではなければ、キーパーソンの意思で決まります。
たとえば、延命治療をするかどうか、医師から説明を受けたとします。
個人的には延命治療に反対であっても、個人の意見は差し控えます。
私が相談を受けた場合は「延命治療を選択されるケースは稀です」と応えます。
しかしそのうえで判断された結果に施設長個人の意見は挟めません。
キーパーソンの意思に沿ってケアを実践します。
医師から延命治療について意思確認をされ、持ち帰って一日悩まれました。
結果として「延命治療」を選択されました。
家族内に不和を抱えていたケース
実のお子様がいても、親の放蕩や離婚で苦労したお子様は、複雑な想いを抱えておられます。
「家族の義務は負うが、親の顔は見たくない」というケースもいくつかありました。
お子様自身に放蕩癖があり、勘当同然のケースもあります。
複数のお子様がいても、面会不可のお子様がいるケースもあります。
入所者の容態の急変とともに、態度も急変されるケースもあります。
そういう方は、普段のかかわりの中で、何らかのリスクを感じる面があります。
家族があまり親身になられない、逆に過干渉になりがちな場合は、施設長はリスクを感じます。
施設長としては個別の事情に配慮しつつ、是々非々で対応することを心がけてください。
人権の尊重、自立支援の発信
「人権の尊重」と「自立支援」は介護保険の基本理念です。
施設介護の方針として家族との会話の中にもつねにおりまぜます。
介護保険は「理念を実行している施設だけが介護給付が受けられる」という建付けになっています。
それが介護保険法の「キホン」の「キ」であることも覚えておくとよいでしょう。
施設に預けているので、社会問題などの影響で急に不安になられるケースもあります。
高齢者虐待に関する問題は過敏になられるケースもあります。
「〇〇施設でこんな報道があったが、ここは大丈夫ですか?」
などの不安を訴えられます。
家族にとってみれば、24時間見ていないので心配になる気持ちはわかります。
そんな時、施設長やスタッフの普段の言動や態度が家族にとって拠り所となります。
普段の会話を通じて介護保険の理念を実践している施設であることをアピールします。
「暴言や暴力は高齢者虐待です。『人権の尊重』という理念にも反します」
「意思を聞かずに押し付けるのは『自立支援』になりません」
具体的には、このような発言を意図的に普段の会話の中に入れて発信してきました。
リスクを意識した言動
老人ホームにとって、家族はリスク要因でもあります。
売り手と買い手は残念ながら、利益相反の関係になるのも事実です。
「大丈夫です」、「安心してください」、などは家族が好むワードです。
これらのワードは、前提条件なしには使用しないようにします。
後になって180度違う状況になることはよくあります。
具体的には以下のような表現でお茶を濁すような説明になります。
「いまは落ち着いておられますので当面は大丈夫だと思います」
「この調子が続くようならひと安心です」
たとえば、転倒したのに施設の独断で受診しなかったら、後になってトラブルに発展します。
実際に受診が遅れて、問題になったケースも経験しました。
転倒後に受診しない例として下記の様に家族に報告します。
「体温や血圧に異常がなく、意識もはっきりされて普段とお変わりないご様子です」
「お痛みもないようなので、このまましばらく様子見をさせていただいてよろしいでしょうか?」
施設と家族が一体となって入所者の生活を支えているという印象を想起させます。
そのうえで、最終判断はご家族、という形にします。
老化進行の報告
入所が中長期になると必ず衰えます。
衰えについても随時報告が必要です。
手すりをもって立ち上がれていた人が、ときどき立ち上がれなくなる。
精神的に混乱して、ありもしないことで不安になられる。
など、衰えを兆候の段階で家族に伝えておきます。
ご家族が「父はトイレで用が足せる人だ」という概念を持っておられるとします。
施設ではたまに失敗があります。
もっと老化が進行してから家族が知ると施設への不信感につながります。
「施設で何か(虐待などの不適切なことが)あったのではないか」
と勘ぐられてしまいます。
よく言われることですが、在ることを在ると証明することはできます。
無いことを無いと証明することは困難です。
家族にとって親の老いは初めての経験でしょう。
ご様子の変化を逐次伝えることで、信頼関係が維持します。
まとめ
家族対応では普段からの家族との人間関係の構築が重要です。
施設の責任者と入所者の家族との関係は常に意識しなければなりません。
施設長が前面に出るのではなく、バックボーンであればよいです。
施設長は安心できる存在感を家族やスタッフに与えるのも重要な役割です。
そのうえで入所者の家族と信頼される人間関係を構築することが求められます。
非常に難しくデリケートな関係づくりです。
50代、60代で他職種から転身された場合、過去の経験に期待されます。
このようなデリケートな関係づくりも期待されるところです。
コメント