介護の仕事の魅力③(認知症がもたらす幸せ)

介護業界をお勧めする理由
昭和40年ころ_東京見物おのぼりさん

老後、介護という言葉を聞くと、とかくネガティブな気分になってしまう方がおられます。

50代、60代の実年世代にとって、老後も介護も、近い将来のことと言えるかもしれません。

私はこれらをポジティブにとらえる工夫をしていますのでご紹介いたします。

認知症は人間の進化形かも

認知症ってなんだろう?

私は人間が進化した形かもしれないととらえています。人はなぜ認知症になるのだろう。

諸説ありますが、医師ではないので医学的な見識は述べられません。

学生時代の卒業論文で人の記憶について調べたことがあります。

昭和の終わりに近い時期の理論ですが、忘れることは免疫力だという考えがあります。

人が心の傷を癒して生きるため、忘れてしまいたいことを忘れようとする。

そうしている間に、その出来事自体、体験自体を消し去ってしまうことがある、ということでした。

また、別の機会に「人はなぜ忘れるのか?」という問いに対して「これまであったことを鮮明に覚えていたら人は生きる気力を失うから、忘れるという能力を授かっている」というご意見を耳にしました。

「忘れる力」が人間に与えられた大切な能力、生きるための能力であるとすれば、認知症の方は人間が進化した形かもしれません。

そう考えると、認知症の方の言動、行動、嗜好に尊敬を込めた興味がわいてきます。

腰椎圧迫骨折を克服する「忘れる力」

腰椎圧迫骨折で医師から「もう立てないし歩けない」と言われた方が、骨折を克服し日常瀬克に戻ることができました。

有料老人ホームの入所者の事例です。

かなり認知症のある方ですが、トイレに行く、食事を食べる、などの日常生活動作は自分でできる方でした。

基本的にいつでもご機嫌がよく、笑顔で明るく過ごされていました。

そんなある日、何度かのしりもち転倒ののち、腰痛で立てなくなりました。

病院では腰椎の圧迫骨折との診断が出て、安静にするしか治療法はないが、骨折が治癒しても、歩くことはおろか、立ち上がることもできないでしょう、と医師の見解でした。

治療法がないということなのでそのまま入院することなく、有料老人ホームに戻りました。

病院から戻ると、いつも通りにベッドから立ち上がってトイレに行かれるようになりました。

最初はかなり顔をしかめて「あ、痛い、痛い」と言いながらヨロヨロと立ち上がっておられましたが、数日から1週間くらいすると、かなりスムーズに立ち上がられるようになりました。

もし認知症がなければ「あんなに痛い思いをするのは嫌だ」と思って動かなくなるのでしょう。

そうするうちに筋力が衰え高齢のため機能が回復しなくなる、というのが医師の診断であったようです。

しかしながら認知症であったがゆえに、毎回新鮮な出来事として「あれ?今日は腰がひどく痛むな」くらいの感覚で激痛に耐えて動いておられたようです。

認知症の「忘れる力」によって、筋力の衰えは防がれ、機能が維持されたようです。

介護の世界で仕事をしているとこのような事例は体験された方も多いと思います。

逆縁を乗り越える「忘れる力」

逆縁のケースのご葬儀に付き添った経験があります。

不幸にして逆縁が生じたことをお伝えすることからはじまりました。

本当に嫌な役回りですが、大事なことなので事実をお伝えしたい、とのご家族の想いもあり、お伝えしました。

お伝えした当初はかなりショックを受けておられ、呆然と斜め上を見ておられた表情が脳裏に焼き付いています。

お通夜、ご葬儀のお話が進み、私が付きってご葬儀に出席することになりました。

無理に気丈にふるまっておられるようなご様子もお見受けしていました。

いざご葬儀がはじまり読経が聞こえ始めると「誰のお葬式?」と聞かれました。

「〇〇さんですよ」とお伝えすると「ああ、そう」と言われました。

数分するとまた「誰のお葬式?」と聞かれました。

式の間で十数回聞かれたと思います。

ご葬儀のあと戻ってくると、ご飯を食べてトイレに行って、という普通の生活に戻りました。

この光景をネガティブにとらえるか、ポジティブにとらえるか、ご意見はあろうと思います。

私は「認知症の力で逆縁を乗り越えて生きることができる」ととらえています。

逆縁自体は哀しい出来事ですが、認知症の「忘れる力」によって、その方はすぐさま笑顔のある生活に戻れたのだから、ポジティブに受け止めています。

まとめ

認知症の方に認知症になってから知り合える、そして深い付き合いが始まる。

こういう経験は介護の仕事以外にないと思います。

昔と比べてできなくなったことを惜しんだり悔いたりするよりも、今のありのままで明るく生きることにも目を向けたいと思います。

認知症の方は、その状態が今のありのままの姿です。

認知症になった今から始まるお付き合い、すばらしい出会いが体験できる仕事です。

過去を知らないからこそ、できるお付き合いがあります。

笑って生きることができれば、これに勝る幸福は無いのではないでしょうか。

介護の仕事は、そんなことを体感できるお仕事です。

コメント