50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、介護職を目指される方に向けて介護の仕事を紹介します。
訪問介護以外の業態の介護職は、無資格でも就業できますが、介護の仕事に就かれる際には、あらかじめ資格取得されることをお勧めしています。
資格取得のための講習で得た知識や技術は、自身の心身のストレス軽減にもなります。
転職によって余計なストレスを抱え込まないためにも、資格取得をお勧めします。
この記事では有料老人ホームの施設長で「労働組合の幹部をされていた高齢者」がおられたのでそのお話を記します。
背景
混在型(健常者と要介護者が入居)の有料老人ホームで施設長をしていました。
2000年代の話なので混在型の事例がなく、ネット上にも情報が少ない状況でした。
要介護の方と健常の方が一緒に暮らすというモデルで運営していました。
今となってはそれがかなり困難を伴うことはわかってきましたが、当時は措置制度から契約制度に移行した直後であり新しいモデルとして各施設がしのぎを削っていました。
現代とは事情が異なる点があるかもれませんが、あらかじめご了承ください。
70代前半、ご夫婦で夫婦部屋に入居されていました。
お二人とも要介護認定を受けていない健常者でした。
お子様がおられなかったので、いずれどちらかが要介護になっても一緒に暮らせる施設として選んでいただいて入居されていました。
ご主人は我々世代であれば名前を聞けば誰でも知っている労働組合で幹部をされていました。
その労働組合は結構活動的で、労働運動、労働争議も活発でした。
入居者懇談会
入居者やご家族に参集いただいて定期的に「入居者懇談会」を開催していました。
その席上でよく質問やご意見をいただきました。
具体的には、会社の決算について詳しい説明を求められたり、当時温暖化対策の先駆けであった「京都議定書」への取り組み状況などかなりハイレベルな質問もありました。
また、介護についても勉強されており、6年ごとの介護保険事業所の指定更新についての見通し、当時話題になり始めていたターミナルケアへの取り組みなど、入居者が安心して暮らすための道筋についてもしっかり見ておられました。
施設で提供する食事について「食材のグレードをあげられないか」という要求も周辺情報をしっかり調べて出してこられました。
レクレーション委員会
健常者を代表してレクレーション委員も務めていただいていました。
レクレーション委員会では、あらかじめ近隣の観光名所、催し、最新情報などを調べて持ってきてくださいました。
老人ホームの入所者が楽しめる企画を一緒に考え、人の意見を引き出すような話の振り方もされました。
なかなか意見がまとまらない場合もあるのですが、なんとか意見をまとめて形にする力のある方でした。
思い出
年末には施設内の共有スペースで一緒にお酒を飲んで紅白歌合戦を見ながら歓談したりしました。
出演歌手や、昔話、これからの施設運営など、話題が尽きることなく語り明かしていました。
紅白歌合戦の歴史に残る事件があった年、この方と一緒に観ていました。
お酒を飲んでいることもあり、これが本当に起こっていることかどうか、お互い「確かに…ですよね」「うーん、そうだね」と確認し合ったのを覚えています。
選挙応援
町会長のルートで「地元選出の現職候補者が施設の前を通るので、前で止まって挨拶をしたい」という依頼がありました。
地元では盤石な支持層を持つ方で元の有権者と個々のつながりが深い方でした。
施設前に来られる前に希望者の方を玄関前に誘導し、職員が見守る中で候補者があいさつをされ「がんばれよー」と入居者からも応援の声が発せられました。
入居者に選挙中であることを実感していただく機会になればと思い対応しました。
しかしその後、この組合幹部OBより書面で申し入れがありました。
「介護施設は政治的に中立であるべき」という主旨でした。
この方は長年にわたって別の政党を応援されてきたということです。
回答も書面にして「当施設は政治的に中立です。この度は候補者の申し入れを受け入れました。他の候補者も要望があればお受けします」との主旨でお渡ししました。
また、ご本人の了解を取って、申し入れ内容と回答を掲示しました。
まとめ
この方の場合はいたって悪気はなく、世のため人の為にというスタンスで血が騒ぐのでしょう。
入居者の為、働くスタッフの為に経営に目を光らせるという姿勢がうかがえました。
これまで歩んでこられた人生の背景から、立場が違う、主義・主張が違う、要求からはじまるという根本的な交渉スタイルが違う、ということは明らかでした。
一般的には扱いにくい入居者なのでしょうが、駆け出しの経営職の私をかなり鍛えてくださいました。
とても思い出に残る方です。
コメント