癒しの犬を飼って失敗した話(介護業界で経験)

経験談(雑談)
明治時代の雛飾り_旧岡田家住宅

50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、介護職を目指される方に向けて介護の仕事を紹介します。

訪問介護以外の業態の介護職は、無資格でも就業できますが、介護の仕事に就かれる際には、あらかじめ資格取得されることをお勧めしています。


資格取得のための講習で得た知識や技術は、自身の心身のストレス軽減にもなります。

転職によって余計なストレスを抱え込まないためにも、資格取得をお勧めします。

この記事では有料老人ホームの施設長で「癒しの犬を飼って失敗した話」について記します。

背景の説明

混在型(健常者と要介護者が入居)の有料老人ホームで施設長をしていました。

2000年代の話なので混在型の事例がなく、ネット上にも情報が少ない状況でした。

要介護の方と健常の方が一緒に暮らすというモデルで運営していました。

今となってはそれがかなり困難を伴うことはわかってきましたが、当時は措置制度から契約制度に移行した直後であり新しいモデルとして各施設がしのぎを削っていました。

現代とは事情が異なる点があるかもれませんが、あらかじめご了承ください。

迷い犬

ある日、老人ホームのガレージに小型犬が迷い込んできました。

駐車している施設車の脇で雨に打たれてずぶ濡れになって震えていました。

事務所のスタッフが「かわいそう」と言って事務所に呼び込み、身体を拭いてあげました。

「事務所に子犬がいる」という噂がすぐに流れ、それを見たさに入居者の方が集まってこられました。

「震えていてかわいそう」、「小さくてかわいい」など、口ぐちにその犬への想いを口にされます。

犬はものの数分で大勢の入居者のハートをキャッチしていました。

飼ってほしいとの要望

数名の入居者から「ここで飼ってあげたら?」、「このままじゃかわいそう」、「わたしたちが面倒を見ます」など言ってこられました。

健常の方、要介護の方も大勢の高齢者が小さな犬を哀れんでおられます。

たしかに雨の中を外に放り出すこともかわいそうなので、飼い主が見つかるまで施設で面倒をみることにしました。

施設の飼い犬になる

当時はSNSもなかったので「迷い犬を預かっています」と施設前に張り紙をして飼い主が現れるのを待ちましたが、飼い主は現れませんでした。

本格的に飼うとなるとやることがたくさんありました。

室内にゲージとトイレを用意して居場所を確保、食事もペットフードにして、トリミング、獣医の下で避妊もしました。

そうして入居者や事務所スタッフの人気者になりました。

アニマルセラピーという言葉はまだ聞き覚えが無かったのですが「この犬が高齢者の癒しになる」という思いに疑いはありませんでした。

少しずつ火種に…

数週間の平和な日々が続きました。

しかし、どうもその犬をめぐって水面下で争いが始まっていることを耳にしました。

まず、犬の世話の取り合いになります。

一日中でも犬と遊んでいられる時間のある方々ですから、ずっとつきっきりになって「いつも〇〇さんが独占している」と言われていました。

また、食事のおすそ分けで肉類を内緒で与えている方もありました。

現場を見たときは注意していたのですが、見ていない時を見計らってやっておられたようです。

「△△さんだけ顔を見るとものすごく喜ぶ、ルール違反だ」と言われて軋轢が生じていました。

過干渉による弊害

「〇〇さんが犬の世話を独占する」と言われますが、〇〇さんは「犬の世話を押し付けられている」と言われます。

一日のお世話のスケジュールと担当を決めても、その枠を超えてお世話をされます。

施設職員が散歩に連れて行っても「時間が短くてかわいそう」など言われ再度散歩に連れ出されたりします。

それを止めると「あまりにかわいそうだから…」と泣き出される方や「親切でやっているんだ!!」と怒鳴り出されたりする方もありました。

犬かわいさのあまり過干渉に歯止めがかからなくなってきました。

とうとう犬と遊びすぎて床に座っている時間が長くなり、大腿骨の関節部分に痛みが生じ、膿がたまってきたのでこれ以上悪化したら手術が必要、という方まで出てきました。

里子に出す

施設の職員がずっと犬についているわけにはいきませんが、ついていなければ何らかの入居者間のトラブルが起こります。

犬をめぐるトラブルが絶えなくなり、入居者の健康の危険にまで及んだため、もうこれ以上飼い続けることは無理だという判断をしました。

幸い、入居者とは関係のない犬好きの方がみつかりましたので、里子に出すことになりました。

その後しばらくはペットロス状態になる方もありましたが、飼い続けるともっと深刻な問題に発展したと思われます。

まとめ

良かれと思ってやったことが、逆効果になってしまった体験です。

飼い始めたころは想像できなかったような結末になりました。

高齢者に癒しをもたらすことが目的でしたが、トラブルと健康不安を誘発してしまいました。

高齢者介護に限らず健常者であっても高齢者のお世話をするということは、気持ちだけでは解決できないこともあると実感しました。

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