自尊心が高い方への介護サービス利用の提案(介護業界で経験)

経験談(雑談)
昭和時代の雛飾り_旧岡田家住宅

50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、介護職を目指される方に向けて介護の仕事を紹介します。

訪問介護以外の業態の介護職は、無資格でも就業できますが、介護の仕事に就かれる際には、あらかじめ資格取得されることをお勧めしています。


資格取得のための講習で得た知識や技術は、自身の心身のストレス軽減にもなります。

転職によって余計なストレスを抱え込まないためにも、資格取得をお勧めします。

この記事では有料老人ホームの施設長で「自尊心が高い方への介護サービス利用の提案」という経験談を記します。

背景

混在型(健常者と要介護者が入居)の有料老人ホームで施設長をしていました。

2000年代の話なので混在型の事例がなく、ネット上にも情報が少ない状況でした。

要介護の方と健常の方が一緒に暮らすというモデルで運営していました。

今となってはそれがかなり困難を伴うことはわかってきましたが、当時は措置制度から契約制度に移行した直後であり新しいモデルとして各施設がしのぎを削っていました。

現代とは事情が異なる点があるかもれませんが、あらかじめご了承ください。

80代 男性 独居からの入居 妻に先立たれ、娘が身元引受人。

自己導尿をされており、要介護認定を受けていながら介護保険サービスを利用されていませんでした。

強い尿臭

私がその施設に赴任した時から尿臭が強い方がおられました。

その方の居室の内外にまで強い尿臭が漂っていました。

その方が通り過ぎた後はわかるくらい、ご本人の身体からも強い尿臭がありました。

介護施設にもあまり立ち入った経験が無かったので「そういうこともあるのか」くらいに思っていました。

ある日、近隣の居室の方から「あの部屋の匂いを何とかしてほしい」との強い要望がありました。

「相手にも人権があるというが、こちらにも人権がある。毎日の生活の中であの匂いをかがなければならないところに置かれているこちらの人権はどうなるのか?」

他の職員の話も併せて聞くと、入浴の着替えをご自身で用意しているが、その時点で強い尿臭がしている、ご自身で洗濯ができているかどうかわからない、前任の施設長は「個人の自由、人権」を理由に放置してきたので、周囲の方の不満が蓄積されている、ということでした。

自尊心

状況を把握するために尿臭がある方の部屋を訪ねました。

ご本人曰く、自分で導尿をしている、何でも自分でできている、誰にも迷惑をかけていない、という立場でおられました。

ご自身の尿臭はマヒ状態からでしょうか、気づいておられないご様子でした。

妻に先立たれ、娘が遠方に住んでいるが、誰にも迷惑をかけずに生きている、という自尊心が見え隠れしていました。

私がわざわざ訪ねたことで、誰か何か言っているのか、何かあったのか、と気に病んで老いた心を痛めておられるように見えました。

傷つきやすそうな方だなぁ、という印象を持ちました。

また、随所に介護サービスを受けておられる方へのいたわりの言葉があり「私は何でもできているから、できることは協力してあげたい」という姿勢もお持ちでした。

介護サービス利用の提案

ご本人は誰にも迷惑をかけていなつもりですが、迷惑が掛かっているという訴えがあります。

「介護サービス利用は衰えの象徴」という固定概念もお持ちでした。

正面切って「介護サービスの利用」を持ち出すと拒否されますので、いまとなっては介護施設の定番ですが「ご本人のために」、「ご本人のご要望に沿って」、「せっかく制度があるのだから」という切り口で事態の打開を図りました。

また、ご本人の意向に沿って、それを実現するための介護サービス利用をお勧めしました。

ご本人とのルール化

  1. リハビリパンツは少なくとも1日1回、尿パットは1日2回、ご自身で交換をお願いします。
  2. 交換されたらノートに記録をお願いします。
  3. 施設の職員が1日2回、使用済パンツとパットの回収にうかがいます。この際に交換されていない場合は、職員が交換のお手伝いをいたします。
  4. 洗濯物の管理、入浴時の着替え準備は施設職員がお手伝いいたします。
  5. ふとん、シーツも定期的に洗濯いたします。

このようにご本人との間で話し合ってルール化した内容でケアプランを作成して介護サービスの利用につなげました。

結果として尿臭は改善され、ご本人も周囲の方も快適に過ごしていただくことができるようになりました。

まとめ

いま振り返ると、この記事の内容はたいしたことではないように思え、薄いエピソードのようで恐縮ですが、これから介護の仕事を始める50代、60代の方は同じような経験をされるかもしれません。

当時は蓄積されたノウハウがなく、ご本人が「介護サービスは要らない」と言うと介護サービスの利用を勧めにくい環境もありました。

「あの施設長は介護サービスを使わせて売り上げを上げていく方針だ」という、うがった見方もされがちな時期でした。

2000年代の介護保険法導入当初の混合型施設、とりわけ異業種から参入した施設は、どこも苦労されていたように思います。

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