親の年金で暮らす親子(8050問題)

経験談(雑談)
1994年の東京タワー

「8050問題」という言葉をご存じですか?

「80」代の親が「50」代の子供の生活を支えるという問題です。

介護施設の施設長をしていると、親子が親の年金収入だけで暮らしているケースに遭遇します。

客観的に耳にする場合と現実を見た場合では違う一面が見えてきます。


誰にでも起こりうる問題であると思います。

背景(家族構成など)

息子が3人いる方でしたが、かなり重度の認知症の女性が施設に入所されていました。

日常会話は支障が無いのですが、短期記憶は1分ともたない方でした。

私が赴任した時から三男の方が身元引受人として対応してくださっていました。

赴任当初は息子が三人いることは知りませんでした。

それほど三男の方が一人ですべて対応されていました。

三男と母の二人暮らし

三男の方は独身で、母の施設入所以前は母と二人暮らしでした。

仕事はアルバイトと転々とされていました。

後にわかったのですが、母の救急対応などで早退したり、勤務を休むので居づらくなって職を変わっておられたそうです。

母は三男がかわいい

長男、次男は家を出て、三男が家に残ったのでしょう。

母は三男がひとしおかわいかったようです。

3人の息子さんについて話を振っても、長男、次男に関しては言葉が少なく「詳しくは知らないけど元気で居ますよ」といわれる程度でした。

三男については「あの子はずっと家に居てくれてよく面倒見てくれるの」とにこやかに話されます。

認知症があっても、長男、次男、三男に対する想いの違いは伝わるものがありました。


認知症になる前から三男とは生計が一体であることを望んでいたように感じました。

介護費用の支払いが滞る

介護費用はご本人の口座からの引き落としですが、ときどき落ちないことがありました。

長男、次男に連絡すると滞納分はすぐに入ってくるのですが、普段かかわりが無いので、状況の説明、請求明細の説明なども必要でした。

当初は督促すれば入金があったのですが、滞納が少しずつ積み重なり始めました。

長男、次男から、母の貯えが十分にあったはずなので、弟が使い込んだかもしれない、と言われました。

それでも長男、次男は深く係わろうとはされませんでした。

通報義務(経済的虐待の疑い)

なんどかこういうことを繰り返すうちに、経済的虐待の疑いもあるので通報義務があるのではないか、という意見が施設内で出ました。

私は三男をよく知っているので「虐待」という汚名を着せたくはなかったのですが、私情をはさんで迷惑をかけるわけにはいきません。

これ以上未払金が積み重なると社内的にも問題になります。

施設内で「通報義務がある」と意見が出た以上、見過ごすわけにはいかず、その方の住所地の地域包括支援センターに相談しました。

成年後見人の選任

さまざまな調査の結果、虐待には該当しないが、成年後見員をつけることが望ましい、という結論になり、地域包括支援センターと3人の息子が合意したということです。

3人の息子さんが居ながら成年後見人を立てるのは珍しいケースかと思います。

これまでの経緯の中で、家族内で修復できない何かがあったと推察します。

家庭裁判所の選任を経て弁護士が成年後見人(保佐)となられました。

選任後の方向性

施設の月々の費用は本人の年金で賄える。

本人名義の不動産を処分して未払い金の支払いに充てる。


余った分は今後の本人の生活費として成年後見人(保佐)が管理する。


息子はそれぞれ個人で生活設計をする。


という結論になりました。

まとめ

介護施設への入所が必要になると自宅でつつましく暮らす以上のお金がかかります。

また、主たる介護者は先が見えない介護負担によって体調を崩したり、職を失い、生活そのものが脅かされる場合があります。


50代、60代で他職種から介護施設の管理職へ転身を目指される場合は、介護をとりまくさまざまな問題点、事例などを知っていただいて、冷静で公平な態度で臨んでください。


また、我々50代、60代世代は、個人的にも身近な問題になりつつあります。

自分の事例が他人の事例と違うことに気づくと、極めて高い問題だと感じる次第です。

コメント