人はその人を深く知るほどその人が好きになる、と営業の研修で聞いたことがあります。
これは介護の仕事では必ずしも当てはまらないことが数日でわかりました。
営業では顧客と雑談ができれば一人前を言われました。
介護の職場に赴任して早々に「介護の仕事はサービス業だからご入所者みな様がお客様です、相手をよく知って相手を好きになりましょう」という話をスタッフの前で話しました。
スタッフはみんな怪訝そうな顔をして聞いていました。
混合型の施設であったので、健常の方から要介護5の方までおられました。
私の経験を記します。
ティッシュを干してもう一度使う入所者
居室に伺うとテーブルの上、椅子の上にティッシュがたくさん出ています。
これは片づけないといけないと思って手を出すと「それは触らなくていい、置いてるんだ」といわれました。
その方は、鼻水を拭いたティッシュを部屋で乾かして再利用されていました。
それが長年の生活習慣であったとのことで、こちらで軌道修正しても良いかどうか迷いながら対応していました。
尿取りパットを節約する入所者
「もったいない」と言ってパット交換を拒否してボトボトのパットを使い続ける方もありました。
有料老人ホームではパットやおむつは自己負担になります。
ご本人の持ち物であり、ご本人が拒否されている以上、施設側で強制交換することは困難です。
その方は「ここのスタッフは環境問題の意識が低すぎる」と言われるのですが、金銭的理由で節約されていることが明らかでした。
アダルトビデオが見つかった
自室のビデオデッキ(当時はビデオテープでした)の操作を誤ってアダルトビデオが出てきてしまいました。
普段はわりと高圧的にスタッフに命令口調で話される方でしたが、そのときだけは春宵な態度であったとのことでした。
ビデオテープの背にタイトルが書いてあったそうで、しばらくはスタッフの間でそのビデオのタイトルが話題になりました。
救急搬送を拒否
低血糖で意識消失して救急車を呼んだのですが、意識が戻って救急搬送を強く拒否された方もありました。
糖尿病をお持ちで、インスリンを自己管理されており、好きなものを食べるときはインスリンを多めに打つ、など自己流の管理をされていました。
インスリンは多く打つと低血糖状態になり、意識消失して命にかかわる場合があります。
ただ、ご家族も「頑固でいうことを聞かないから本人の好きにさせてください」と言われていました。
おそらくインスリンの自己管理を誤ったのではないかと思われます。
施設スタッフ、救急隊、電話でご家族にもつないで約30分説得しましたが「絶対に救急車には乗らない」と怒声を浴びせられ、最終的には救急隊から「我々は、強制搬送はできませんから」と言って帰られました。
救急隊にご迷惑をおかけしてしまったなぁ、と思いましたが、再発防止は難しいなぁと感じました。
まとめ
介護施設で仕事をするうちに確かに「知れば知るほど好きになる」という状況ではないことに気づきました。
介護の職場では、一般的な営業の常識が適用できないことを知りました。
「知れば知るほど好きになる」のは事実だと思いますが「知りすぎると引いてしまう」ということだと思われます。
いずれも昔の話で、現代ではこのようなことは無いかもしれません。
いまは混合型の有料老人ホームもあまり聞かなくなりましたが、健常の方が徐々に要支援、要介護になっていかれる姿を見てきたことが、自分にとってはとても勉強になったと思います。
介護の世界は奥が深くて面白いなぁ、と感じています。
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