私は異業種から突然の転勤命令で有料老人ホームの施設長に就いたので、全くの素人なのに施設長になってしまいました。
いま思えば、スタッフのみなさんにかなり迷惑をかけてしまったと反省しています。
有料老人ホームの施設長には資格要件が無いので、異業種から参入される方も多いと思います。
そんな方向けに、異業種から参入した私の経験談を記します。
はじめての作話対応
施設長として赴任して間もないころ、入所者の方からクレームを受けました。
「ここのスタッフは、私が見ていない時に私の衣類を洗濯せずにタンスにしまう、私がたまたま見つけた、ここのスタッフはなんてことをするんだ」という内容でした。
「これはマズイ!」と思ってすぐにリーダーを呼んでちょっときつめに改善指示をしました。
ここまでは普通のできごとなのですが、リーダーによるとそういう事実はなく、入居者様の作話(さくわ)※であることが判明しました。
異業種から来て経験不足の私は、まさかこんな作話(さくわ)をされるとは夢にも思わずに対応してしまいました。
当然のことながら、スタッフから猛反発を食らいました。
こういうことでは信頼を損なうなぁ、とおおいに反省しました。
※作話(さくわ)」:高次脳機能障害の症状の一つ
兵士への撤退命令
ご入所様に「話がある」と居室に呼ばれました。
いろいろとお世話になって何も不満が無い、と感謝の気持ちを長々と述べられました。
そういう主旨で呼んでいただいたのか、と安心していたところ「ただ、ゆっくり寝たいので夜間だけでいいからイラクの兵隊を私の部屋から撤退させてくれ」と言い出されました。
テレビで連日中東情勢を報道している時期でした。
「さて、どうしよう」と心の中で困りました。
幻覚はその方には見えている事実だから否定せずに対応すべき、と本で読んでいたので「なんとかなるだろう」と思い切って「わかりました、なんとかします」と言いきりました。
早速主治医には「こういうことがありました」という報告だけは済ませました。
数日後「ありがとうございました、おかげであれ以降、来なくなりました」と言っていただいてホッとしました。
隊長になりすまし
2000年代前半は戦争経験のある方がかなりおられました。
「隊長に呼ばれているから行く」と言って精神的に不安定になられ、職員を呼んでは「向こうの建物に行くからここから出してくれ」と言われ、何とかして施設から出ようとされます。
結構騒がしくなるので、スタッフも困るし、他の入所者にも迷惑が掛かります。
これを毎晩のように繰り返される方がいました。
面と向かっては話を聞いてくださらないので館内内線で電話をかけました。
「○○さん、隊長です、明日の朝は早いから、今日はもう寝てください」と話すと「わかりました」と非常に素直に寝てくださいました。
噓をついてしまうことに疑問を感じながら、「それしか方法がない」と自問自答しながら対応していました。
看護師への業務指示の失敗
施設長として施設の看護師に業務指示をするのですが、医療行為について指示できるのは医師だけ(法律の取り決め)ということを知りませんでした。
外部のクリニックの往診医が点滴をして帰った後、針の抜去を施設の看護師に指示したところ、拒否されました。
「看護師免許をかけてまでできない」と言われたのですが、意味が解らず行政に問い合せをしました。
行政からは「医師から指示書をもらってください」と言われ、指示書を作成して医師にサインをもらい、ようやく針の抜去ができました。
知らないことは恐ろしいことで、非常識な指示をしてしまいました。
認定調査で虚偽を語る人
介護保険認定には期限があり、期限がくると更新申請をします。
更新時には認定調査員が来られて調査があります。
当時は施設が介護度を上げて収入を増やそうとすることが横行していたので、調査員の方はご本人様と1対1で会われ、施設の話をあまり聞いてくださいませんでした。
プライドの高い方はなんでも「できる」と言われるので、介護度が異常に下がり、介護手間に対する対価(介護給付)が下がりすぎ、割に合わないと感じることもありました。
最近はこれも是正され、施設の意見も聞いていただけるようになっています。
まとめ
資格要件がなく異業種参入が容易でも、さまざまな面で責任はかかります。
私はとにかく介護付有料老人ホームのことをひたすら勉強しました。
2004年ころ、介護保険施行から間もない状況で、行政も事業者もご利用者様も、みんながまだ試行錯誤の時代でした。
介護保険法は複雑になりましたが、理念が浸透し、ケアの質もかなり進化しました。
当時と比べると、とてもよい制度になってきていると思います。
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