50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、介護職を目指される方に向けて介護の仕事を紹介します。
訪問介護以外の業態の介護職は、無資格でも就業できますが、介護の仕事に就かれる際には、あらかじめ資格取得されることをお勧めしています。
資格取得のための講習で得た知識や技術は、自身の心身のストレス軽減にもなります。
転職によって余計なストレスを抱え込まないためにも、資格取得をお勧めします。
この記事では有料老人ホームの施設長で「複雑な想いを話された入居者」がおられたのでそのお話を記します。
背景
混在型(健常者と要介護者が入居)の有料老人ホームで施設長をしていました。
2000年代の話なので混在型の事例がなく、ネット上にも情報が少ない状況でした。
要介護の方と健常の方が一緒に暮らすというモデルで運営していました。
今となってはそれがかなり困難を伴うことはわかってきましたが、当時は措置制度から契約制度に移行した直後であり新しいモデルとして各施設がしのぎを削っていました。
現代とは事情が異なる点があるかもれませんが、あらかじめご了承ください。
80代女性 夫を亡くして独りで入居 介護認定は受けておらず自立。
マイペースで生活され、物静かであまり人とお話しされない方でした。
複雑な想い
ある日「話がしたい」と言って来られ居室にお伺いしてお話を伺いました。
お話の内容を箇条書きにしました。
- 左目を失明している。右目は白内障で手術が必要と言われるが、目の手術は怖いからしないつもり。食堂には行っているが、目がちゃんと見えていないので、あぶないこともある。眼科医から「人が集まるところには行かないほうがいい」といわれているので、館内イベントなどへは(誘ってもらうが)参加できない。
- 車に乗れない。肝臓が悪いのと、人の頭が割れる車の事故を目の前で見てトラウマになっている。
- 小さいころから病弱だった。20才ころ結核をわずらってから大きな病気をしなくなった。59才で舌癌(ぜつがん)になって手術をした。そのときから乳癌があったが、母が悲しむと思って言わずにいた。母が他界してから乳癌の手術をした。70才でたんのうの手術をしたのが最後の手術。癌で何度も手術をしているが、一連の治療を通じて神様のご加護を感じた。持病は、椎間板ヘルニアがある。
- ご主人は前立腺癌で、70才くらいで他界。
- 入居の動機は、高松でひったくりに狙われて(つけまわされて被害はなかったが)、ひとり暮らしをしていると、周りの人に迷惑をかけるかもしれないと不安になったため。教会に歩いていける老人ホームを探していた。クリスチャンだから教会のお友達からここを紹介された。他の施設も見学したが、入居者の印象が怖かった。
- ここに入居することは、姉が決めてくれた。いままで人生の大きな決定事項は、母か姉が決めてくれた。結婚しても母と同居していた。レールを敷いてもらって、レールの上を行くだけだった。母は以前に亡くしていたが、自分は身体が弱いので、姉より先に逝くと思い込んで、姉に頼りきって生きてきた。昨年姉を亡くしてとても不安になった。レールを敷いてくれる人がいなくなった。
- ターミナルケアについても気になっている。もし癌が再発したらホスピスも考えたい。
- 身よりは姉の子(甥)ただひとり。わたしは子供には恵まれなかった。3人姉妹の末っ子で、真ん中の姉(次女)は戦時中に腸チフスでなくなった。一番上の姉は昨年亡くなった。父は代々村長をしていた家柄。でも母と私がキリスト教徒になって「仏教を捨てた」と叱られ絶縁になった。父の里は怒っているので付き合いがない。母の里は(大阪の)大空襲以来連絡が取れない。
- キリスト教では、教会で共同墓地を作って、自分の籍がある教会の共同墓地で、合同で祀る。母の籍があるはずの教会が、戦争で焼けてわからなくなっている。いま、母の遺骨は私が持っている。役場でどうすればよいか相談したら、火葬まではいろいろ規則があって役所も教えてくれるが、火葬が終わったあとの遺骨については、あまり親身になってもらえない。
- 主人の遺骨は主人の籍がある教会で祀っている。私は他の教会に籍があるが、そこで祀らなくていい。献体の後、遺骨は戻さなくていい。医大が合同で祀ってくれたらそれでいい。遺骨に魂はないので、特にお墓に埋葬してほしいとは思っていない。
- 牧師が挨拶に来た。(30代後半にみえる)若い女性の牧師で、アメリカで勉強していたらしい。はじめて会った。わたしは葬儀も何もしないといったが「記念祭(葬儀のあとの偲ぶ会)は是非やらないといけない」といわれて、1時間くらい話し合ったが平行線だった。なんとなくイベント感覚で言われているようだった。わたしは本人の意志で、葬儀も記念祭もやらない。
- 近くの教会に籍を移すのは、いろいろと手続きや儀式があって大変な仕事です。以前に移したときは大変だった。もうそういう気力がない。
- 母の遺骨をどうするかは、私の籍がある教会に相談をする。私の籍がある教会には母の籍はないので、祀ってもらえるかどうかはわからない。四国巡礼のお寺に納めようかとも思うが、お寺に納めるとクリスチャンの母が怒るかもしれない。
- 前任者には話をしたが、あなたが新しく来られたのでもう一度お話しておきます。
まとめ
私たちの施設を終の棲家に選んでいただいて、これまでの人生の総決算を考えておられるということで深刻なお話でした。
高齢になって頼る人が居なくなるという心細さは察するにあまりあります。
特に混合型の有料老人ホームの施設長は、こういう課題を一つずつ親身になって不安に寄り添う姿勢が必要です。
「介護現場を知る施設長」と「介護現場を知らない施設長」は、一長一短があります。
こういう場面は、介護業界生え抜きの施設長よりも、50代、60代で他職種から転身した施設長の経験が、重用される場面でもあります。
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