混合型の有料老人ホームの施設長をしていた時の経験談です。(2000年代中頃)
混合型の施設とは、健常者の方と要介護の方がおられる施設です。
健常者にとっては要介護となる将来を見据えて入居する高齢者マンションのような施設です。
健常者の方(Y様)が健常者の方(O様)に相談をされたところから始まります。
O様はY様の異様な様子から、認知症の発症という事態側がわが身に降りかかることにかなり恐れ抱かれることになってしまいました。
何があったのか、事実関係を時系列でまとめてみました。
高齢者事業を知る上でのご参考になればと思い記します。
ある秋の日
9:00
O様の居室に行かれ「外国人がわたしの部屋に居る」と言われる。
O様はY様と今年の初めに旅行を計画されていた仲の良い関係。数日前にも同様の相談を受けておられ「次に来たら教えてください」とO様が言ったため来られた。
O様がY様とともに居室にうかがうべく廊下を歩いていると話の内容が「男女が来て男の人が風呂に入っていて、女の人はいまから風呂に入ろうとしていた」と変わりました。
居室に伺うと室内はわりときれいで、風呂はまったく使った形跡がありませんでした。
ベランダもカギが閉まっていたので外部からの進入形跡も無いため「幻覚じゃないですか」というと「幻覚ですかねぇ」と言って首をかしげておられた。(O様より聞く)
10:30
看護師が訪室して
「昨日、病院を受診されたと思いますが、お薬をあずからせてください」
と申し上げると
「薬は自己管理です。薬だけは自分できっちりできるんです」
と強く言われ渡していただけませんでした。
11:00
看護師のところに
「昨日薬をもらったかどうかわからない」
と言って来られました。
看護師が病院に問い合わせすると、
会計を済ませた後薬を受け取らずに帰られたとのことなので、
職員が薬を引き取りに行きました。
16:30
警察署より「Yさんを迎えに来てほしい」と電話あり。
警察署に伺うと
「盗難にあったといって来られたが、話を伺ってもつじつまが合わず様子がおかしい。
事実なら捜査しますが、認知症の方ですか?」
と警察の方から言われました。
「健常の方ですが…」と前置きしたうえで最近の様子をお話して、
警察より施設に一緒に戻りました。
17:00
警察署から戻り、施設の応接室で
「何かお困りですか?」
と伺うと
「郵便局にいくばくかの貯金があります。
年内に娘夫婦と妻のお墓参りがしたい。
それと、自転車がなくなったので購入したい。
今の困りごとや相談はそのようなことです」
と言われ、
盗難のことは何も言われずお部屋に帰られました。
17:30
通常通り食堂で夕食を食べられました。
18:00
「盗難にあった。現金がなくなった」
と来られました。
職員とともに居室にお伺いし一緒にさがしました。
かばんの中、ポケット、ゴミ箱など隅々までさがしましたところ、
ゴミ箱から硬貨(千数百円)がでてきました。
無くなったのはお札ということです。
通帳、診察券、健康保険証、老人医療保険受給者証などは確認できましたが、
お札は見つからず。
「あすもう一度一緒にさがしましょう」
とお伝えして退室しました。
次の日
4:55
ナースコールがあり、
「薬をもらったかどうかわからない。もう一度処方してほしい」
と言われたため夜勤者が訪室。
居室のテーブルの上のスーパーの袋の中に薬を発見。
お渡しすると納得される。
5:15
夜勤者のところに来られ
「タクシーを呼んでください」と言われました。
いまが早朝である旨お伝えすると
「いろいろなことに巻き込まれて、時間がわからなくなってしまった」
と言われ居室に戻られる。
7:50
コールがあり朝食は欠食されるとのこと。
8:10
事務所に来られ
「金庫の中身を確認したい。通帳と印鑑が無くなった」
と言われる。
お預かりしている金庫をお出しして確認されると
「ここには解決に向けた手がかりは無かった」
とおっしゃられるため
「今日の午後、お部屋にうかがいますので、お困りごとを解決しましょう」
とお伝えして金庫をお預かりし、部屋に戻られる。
10:30
2Fケアステーションに来られ
「輸血は嫌なんです」と言われる。
「今日は日曜日なのであす先生に相談しましょう」
とお伝えする。
12:00
昼食は一人前完食されました。
12:20
事務所に来られ
「あす輸血に行くので病院の電話番号をおしえてくれ」
と言われ
「施設の看護師が電話をします」
と申し上げるも
「私が自分で電話をします」
と強く言われるため、
電話番号をお伝えすると居室に帰られる。
その後の対応(娘様への依頼)
医療、介護に必要な、健康保険証、老人医療費受給者証、診察券、お薬、貴重品などを娘様の依頼に従って、施設でお預かりする。
ご本人の意思でお預かりすると、ご本人の意思で返却せねばならないので、娘様の依頼であれば、ワンクッションおくことができます。
娘様は遠方で、すぐに来られないのであれば、明日の受診は施設職員が同行いたします。
これも娘様の依頼とさせてください。
過去に何度か引き落としが落ちなかったことがあったと聞き、そのときはご自身で口座に入金をされたようです。
介護サービスを利用されると費用がかかります。
Y様が将来設計をされる中で、その点を考慮されているか確認を依頼。
突如、引き落としが落ちなくなり、資産が底を尽きるという事態も想定されます。
今後、ご本人に代わって娘様が資産管理をされるほうが良いのではないかと考えます。
まとめ
当時のことを思い出すと恥ずかしいほど後手に回って振り回されていました。
もっと予防策を講じて、もっと早く、もっと適切に、もっと細かく対応をしていればよかったと思います。
介護保険制度も導入当初であり、混合方有料老人ホームのノウハウはどこにも無い状況でした。
この事態に至るまででもいくつかの兆候があったと思われますが、見過ごしていました。
いまはどこの事業者でもノウハウが積みあがって相談相手もいますので、これから転職される50代、60代の方はご安心ください。
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