混合型の有料老人ホームの施設長をしていた時の経験談です。
(2000年代中頃)100歳を超えた女性、認知症なしの方のお看取りにまつわる話です。
当時は看取りケアとターミナルケアの区分の違いも定まっていなかったように思います。
末期がんのため入院せずに施設で最期を迎えたい、というご要望を伺っておりました。
有料老人ホームは居室がその方のお住まいです。
「自宅で逝きたい」というご希望に沿うのは有料老人ホームとして当然受け入れるべきことと認識していました。
その認識を早い時点で介護職員と共有しておくべきでした。
高齢者事業を知る上でのご参考になればと思い記します。
ご本人の前で配慮を欠いた
介護職員がご本人を目の前にしてご家族との会話の中で下記のようなことを話しました。
「最近、ムセが激しく、ペースト食になっていますが、
誤嚥性肺炎の危険性がかなり高く、
一食一食が毎回こちらとしてもカケみたいなもので、
本人さんご本人も誤嚥性肺炎で入院するのもしんどいと思うので.・・・
オシメ交換も全身の浮腫が出ているため、
足に触れると痛いとは言われず、
痛い顔をされ、こちらとしても介助が難しい・・・
夜勤もこちら一人で対応するので他の重症の方が多く
一時間ぐらいそちらにとられると、何かあっても
本人さんのところに すぐに行けない状態ですので、
こちらとしても心配ですし、精神的な負担になっています。
他のスタッフでも夜間、そういう状態(最期)にあたった時の不安を訴える人も多いので・・・
今の状態では食事摂取もままならないので、
入院して治療したほうがいいのではと思います。
夜勤者も30分おきに見て廻っていますが、
いつ、どういうふうになるかというのが・・・」
介護職員が自分の心の負担に耐えかねて、
本人の前で家族に「施設に居ずに入院してほしい」という主旨の話を
してしまいました。
家族の反応
近くに居た看護師が
「こういう話は本人さんのいる前ですべき内容ではないので外に出て話しましょう」
といって居室の外に出ました。
息子さんは涙目で唖然とされていたそうです。
本人様は、ここは天国のような所なのでここにいたい、
息子様は、お母様の意思を尊重したい、
息子の奥様は、迷惑をかけるので入院させたい、
遠方に住む娘様は、息子様考えに従う、
との意思を確認しています。
看取りは迷惑?
事後ですがその介護職員に
「なぜそのようなことを言ったのか」
聞き取りをしました。
「容態が悪くなったら病院に行くのが当たり前で、
施設に居たいというのはわがままじゃないですか、
迷惑じゃないですか」
と同意されることを前提の話し方で私に言いました。
当時は自宅での看取り、
とりわけ施設での看取りはあまりメジャーではなかったので、
こういう職員の考えも理解できました。
老齢期はたくさん点滴チューブがつながって、
医療の限りを尽くして命を長らえることが、
少し前までは普通でした。
身近でこのような経験があれば、
そういう考えになるのも当たり前でした。
逆にわたしはそれよりも以前の時代、
いつのまにか家で亡くなっていた、
ということが普通であった時代を知っているので、
自宅で亡くなる(看取る)ことに抵抗が無かったのでした。
このような温度差があるのに、
施設長として施設の方針を発信していなかった(みんな同じ気持ちと思っていた)ことに
気づきました。
はじめての看取り経験で体得したもの
その後も紆余曲折がありましたが、
ご本人様の意向に沿って施設で最期を迎えていただくことができました。
そのうえで、私が体得したことは以下の3つです。
施設長の想いを施設職員に伝えること
職員は個々の人生経験からそれぞれの死生観を持っています。
しかしそれは個人ごとに違うので、看取りに際しては相手の気持ちに沿うことが大切です。
「この施設で最期を迎えたい」と言っていただけることを光栄に感じて、
精いっぱい尽力させていただきましょう、という施設長の方針を語ることで、
不安からくる施設内の不協和音はかなり低減されました。
最期を見届ける介護職員の心の負担を理解すること
先にも触れた通り、職員は個々の人生経験からそれぞれの死生観を持っています。
この点は別記事でまた詳しく触れたいと思いますが、
介護職員には大きな負担となってしまうことがあります。
職員の心の負担をあらかじめ理解しておかなければ、
現場との壁ができてしまいます。
家族のデリケートな気持ちに配慮する
家族にとっても身近な人の最期の決断なので、
迷いがあります。
家族の心の寄り添うこと、
気持ちが変わることもありますので、
その場合はその気持ちに沿って対応することの
二つの対応が必要です。
まとめ
看取りについては、また別記事でも触れます。
この事例では、施設長として主体的にかかわるとともに、
医師、家族、施設で話し合い、情報を共有しながら、
穏やかな最期を迎えていただくことができました。
毎日何度も現場に行って施設長の想いを職員に直接伝えるよう取り組みました。
苦痛や痛みを取るのは医療ですが、おだやかな心を保つことは介護の領域です。
この二つがうまく連携できてこそ、質の高い看取りが実現できます。
いまはさまざまな社会資源が充実しつつあります。
施設にもノウハウがあり相談相手もいますので、
これから転職される50代、60代の方はご安心ください。
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