50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、管理職を目指される方に向けて「老人ホーム施設長(ホーム長)の仕事」をいくつかの記事に分けて解説いたします。
施設長(ホーム長)の役割は、成果を出すための組織作り、ということに集約されます。
この役割を果たすために、施設長(ホーム長)が重視すべき課題がいくつかあります。
大きく分けるとその対象は、顧客満足、従業員満足、経営満足、の3点です。
利用者を大切にする、スタッフの力を最大限引き出す、経営改善に寄与する、などの施策を繰り返すことになります。
なお、この記事では「老人ホーム」という一般的な呼称で「介護付き有料老人ホーム」、「住宅型有料老人ホーム」、「サービス付き高齢者向け住宅」、「特別養護老人ホーム」を含むものとします。
それぞれの業態に共通する事項を扱うようにいたしますが、一部の業態や役割分担によっては対象外になることもあるかもしれませんので、あらかじめご了承をお願いいたします。
ここでは、老人ホーム経営の根幹となる指導・基準の遵守(監査などへの対応)について触れます。
集団指導
自治体の介護保険の監査指導部門により実施されるものには、集団指導、運営指導(旧称・実地指導)、指導監査などがあります。
集団指導は、介護サービス事業者が適正なサービス提供を行うために遵守すべき制度の内容等の周知徹底を図るほか、重要な情報伝達の場であることから、
① 実地指導や監査において指摘の多かった事項
② 行政処分を行った介護サービス事業所がある場合には、処分の原因となった不正の概要やその要因等
について分析を行い、注意喚起を図る
など、不正事案等の発生の未然防止に資する
本来は会場に集められて法改正や旬の課題などをだいたい丸一日で説明されるものです。
新型コロナ禍以降はオンライン開催になっているケースがほとんどのようです。
出席義務があるので参加側はオンラインで出欠確認報告をします。
運営指導(旧称・実地指導)
運営指導は、介護保険施設等ごとに、介護サービスの質、運営体制、介護報酬請求の実施状況等の確認のため、原則、実地に行うものです。
利用者一人ひとりが受けた個別のサービスの質及びサービス提供の基礎である施設設備を確認する「介護サービスの実施状況指導」、人員及び運営の基準に規定する運営体制を確認する「最低基準等運営体制指導」、加算等の介護報酬請求の適正実施の確保のために行う「報酬請求指導」の3種類があります。
運営指導は実地に行うことを想定していますが、施設・設備や利用者の状況以外の実地でなくても確認できる内容の全部又は一部事項にかかる確認については、情報セキュリティの確保を前提としてオンライン等(オンライン会議システムや自治体ホームページ等)を活用することが可能。
つまり、今後は実地で行わない場合もあることから、運営指導と名称を改めたところです。
実質的な監査であり、自治体の指導員の方が施設に来られます。
タイムカード、介護記録、ケアプランなどを分担してつぶさに見られます。
対応する側も複数のグループに分かれますので、できていないことのつじつま合わせは非常に難しい実施方法です。
施設管理者にとって非常に重いイベントになります。
指導来訪当日に過去に退去された方も氏名を指定されますので、その方の資料を一式提出します。
共通して言えることは、記録がなければやっていないのと同じということです。
入浴記録がなければ入浴していないことになり、介護保険請求の返戻(自主精査)の対象となります。
本来は3年ごとに定期的に来られますが、新型コロナ禍以降は自己点検シートに基づいた訪問ではない指導も導入されています。
指導監査(介護保険の監査指導部門によるもの)
事前通知がある場合もありますが、多くの場合が抜き打ちで突然やってきます。
運営指導に基づく指導への対応が不十分と判断された場合や、人員配置基準に違反している、高齢者への虐待がある、などの通報に応じて自治体の指導員の方が監査に来られます。
通報者は、利用者、利用者家族、職員、退職者、その他施設に出入りする人などです。
高齢者虐待については、通報する義務があり、通報された側は確認の義務があります。
施設長もしくは管理職は、通報されそうな事案を把握したらすぐに調査を開始すると同時に自治体の監査指導担当部門に前もって報告することをお勧めします。
施設から自主的に申告があれば、即監査とはならずに施設からの報告を待っていただけるケースがあります。
監査に来られると対応がかなり大変なので先手を打っておいたほうが賢明です。
保健所による立入検査
定期的に来られます。
事前提出資料で必要な項目は事前にチェックが可能です。
食中毒、感染症のまん延防止措置が確実になされていれば特に恐れることは無いのですが、ほとんどの事業所が何らかの指摘・指導を受けます。
指摘・指導事項はあるものとして対応しています。
申告監査(労働基準監督署によるもの)
労働基準監督署も内部通報、退職者からの通報に応じて監査に来られます。
施設長もしくは管理職は、通報されそうな事案を把握したらすぐに調査を開始すると同時に労働基準監督署に前もって報告することをお勧めします。
会計監査、法人の監査など
本社や本部で対応されるので、施設レベルでは特に指示がなければ対応の必要はないと思います。
<参考資料>
介護保険施設等運営指導マニュアルについて 厚生労働省HPより、
運営指導の事前提出資料(自己点検シート) 各自治体のホームページ参照ください。
※この自己点検シートをすべて埋められるようになれば、他職種から参入した施設長でも基本的な運営知識はほぼ完璧です。
有料老人ホームの設置運営標準指導指針について 厚生労働省HPより、
※介護付き有料老人ホームの場合は「特定施設入居者生活介護」としても指導がありますので、標準指導指針とあわせて自己点検シートのチェックが必要です。
※サービス付き高齢者向け住宅のうち、老人福祉法の規定において有料老人ホームに該当するものは標準指導指針の対象になります。
まとめ
施設長(ホーム長)は自施設が法制度に基づいてコンプライアンスを遵守し、収益を上げることが責務です。
このため、監査などをクリアすることは必然です。
万一クリアできなかった場合は、勧告など行政指導、指定取り消しなど行政処分に至り、社会的信用が失墜する事態を招いてしまいます。
これらの監査などへの対応をシュミレーションすること(自主監査)によって施設全体の意識が高まり、他業種から参入した施設省や管理職も、老人ホーム経営の根幹となる基準が理解できます。
参考資料をダウンロードしてお試しいただくことを推奨します。
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