50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、管理職を目指される方に向けて「老人ホーム施設長(ホーム長)の仕事」をいくつかの記事に分けて解説いたします。
施設長(ホーム長)の役割は、成果を出すための組織作り、ということに集約されます。
この役割を果たすために、施設長(ホーム長)が重視すべき課題がいくつかあります。
大きく分けるとその対象は、顧客満足、従業員満足、経営満足、の3点です。
利用者を大切にする、スタッフの力を最大限引き出す、経営改善に寄与する、などの施策を繰り返すことになります。
なお、この記事では「老人ホーム」という一般的な呼称で「介護付き有料老人ホーム」、「住宅型有料老人ホーム」、「サービス付き高齢者向け住宅」、「特別養護老人ホーム」を含むものとします。
それぞれの業態に共通する事項を扱うようにいたしますが、一部の業態や役割分担によっては対象外になることもあるかもしれませんので、あらかじめご了承をお願いいたします。
ここでは、顧客対応のうち、ハラスメント(難クレーム含む)対応について触れます。
基本的には顧客満足はスタッフがつくり出すものです。
スタッフが明るく生きい生きと仕事ができる環境を提供する一環として「スタッフを守る」という姿勢での取り組みになります。
介護現場におけるハラスメント背景
介護業界のハラスメント対策の取り組みは他業界と比較して遅れています。
この遅れは、誰も経験したことがない超高度高齢化社会に移行する中で生じた課題であったと言えます。
介護業界は2000年の介護保険導入から市場規模が急拡大し、急激な成長を遂げ、各事業者は懸命に市場の成長に合わせて受け入れ態勢を整えてきました。
このため、人の経験と感覚に頼った運営になってきたことは否めません。
われわれ50代、60代の実年世代が若かりし頃は、ハラスメントが横行していました。
今の常識に照らすと犯罪、報道レベルの内容が巷にあふれていました。
今の高齢者は時代背景として「ハラスメント意識が低い世代」なのかもしれません。
高齢者の加害行為については「敬うべき年長者だから…」ということで寛容であったことも事実です。
「お客様は神様です」というワードが定着しており、お客様である利用者やご家族にも遠慮してしまう社会的な背景もあります。
認知症周辺症状(BPSD)の治療の進化
対応が難しい利用者で治療が困難であっても、介護施設、スタッフとしては「我々が看ないと誰がこの人を看るんだ?」という使命感がありました。
私は医師ではないので医療のことは断定的には言えませんが、介護の経験上の感想では、認知症の周辺症状(BPSD)を抑える治療が進化(成熟)してきた、という印象があります。
症状や効き方に応じて新薬が次々開発され、薬の種類が増えたように感じています。
認知症の医療、治療が大きく進化していることでハラスメント防止が線引き(定義)できるレベルになったのではないか、という気がしてます。
ハラスメント対策の重要性
これらの問題点によって、ハラスメント対策が遅れ、結果として働く人のモチベーションが維持できなくなり、高い離職率につながったという背景があります。
スタッフの確保が最も大きな経営課題であるといえる昨今、働くスタッフのモチベーション維持向上は、施設の運営管理側の最優先課題でもあります。
行政としてもハラスメント防止に取り組まなければ、介護行政が成り立たなくなるという危惧も感じているように見受けられます。
介護現場におけるハラスメント対策
顧客のハラスメントについて、事業者が単独でハラスメントのガイドラインを明示するのは困難です。
行政より取り組みいただいているので、わかりやすい事例を選んで参考にご紹介します。
この事例では、ものを投げる、つばを吐く、体をたたく、大声で怒鳴る、理不尽な要求、体に触る、性的な話をする、長時間のクレーム、つきまとう、などがあげられています。
50代、60代の実年世代で他職種から転身されると、このようなことがあることにピンとこない方もあろうかと思います。
これまでに私が施設長、管理職としてスタッフから相談を受けた事例では、各項目とも枚挙にいとまがないほど相談受託経験があります。
さらには、噛みつかれた、部屋に押し込められた、杖で殴られた、などもありました。
放置するとエスカレートしますので、早い段階でスタッフを守る方策を講じることが重要です。
ハラスメント防止は啓発から
これまで介護事業者には「介護サービスの提供を断る自由」はかなり制限されてきましたが、行政の啓発チラシで「介護サービスの提供が終了となる場合がある」と明記いただいています。
これらの啓発によって、まず予防(ハラスメント防止啓発)することが最重要課題となります。
<参考>
介護現場におけるハラスメント対策 厚生労働省HPより
ハラスメント防止啓発チラシ 兵庫県HPより
まとめ
途中ブランクがありますが2004年から介護事業に携わり、あらゆるハラスメントに対応してきました。
特に高額な費用をいただく高級有料老人ホームでは、入居できる財力のある方を探してくるのも一苦労です。
痛恨の極みですが、ちょっとした躊躇によって大きく後手に回ってしまったことがあったことは否めません。
自分が前面に出ようともスタッフの不安は残るため、離職につながったケースもありました。
年長者を敬うことと、ハラスメントを許容するのは別の問題です。
行政もバックアップ方向に舵を切っていることもあり、利用者側も施設(スタッフ)側もお互いのWIN-WINのために、しっかりとハラスメント防止啓発を心がけたいところです。
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