50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、管理職を目指される方に向けて「老人ホーム施設長(ホーム長)の仕事」をいくつかの記事に分けて解説いたします。
施設長(ホーム長)の役割は、成果を出すための組織作り、ということに集約されます。
この役割を果たすために、施設長(ホーム長)が重視すべき課題がいくつかあります。
大きく分けるとその対象は、顧客満足、従業員満足、経営満足、の3点です。
利用者を大切にする、スタッフの力を最大限引き出す、経営改善に寄与する、などの施策を繰り返すことになります。
なお、この記事では「老人ホーム」という一般的な呼称で「介護付き有料老人ホーム」、「住宅型有料老人ホーム」、「サービス付き高齢者向け住宅」、「特別養護老人ホーム」を含むものとします。
それぞれの業態に共通する事項を扱うようにいたしますが、一部の業態や役割分担によっては対象外になることもあるかもしれませんので、あらかじめご了承をお願いいたします。
ここでは、利用者アンケート(顧客満足の計測)について触れます。
基本的には顧客満足はスタッフがつくり出すものです。
スタッフが明るく生きい生きと仕事ができる環境を提供するための実態調査という姿勢での取り組みになります。
介護施設の顧客満足を計測する方法
介護の現場では提供したサービスの質が付加価値になります。
そのサービスで満足されたかどうかはその場での「ありがとう」の一言に集約されます。
行政も顧客満足度には注目しているようですが、実際にそれを推し量るスケールは準備されていません。
介護サービスは顧客満足がサービスの対価であるともいえますが、実際にその尺度が無いのが現状です。
顧客満足を推し量る手法として、利用者アンケートがあります。
各会社(法人)や施設ごとの書式で定期的に計測しています。
利用者アンケート(例)
項目ごとの満足度を得点化するために「とてもそう思う」(5点)、「まあそう思う」 (4点)、 「どちらともいえない」(3点)、「あまりそう思わない」(2点)、「ほとんどそう思わない」(1点)の5つの回答選択肢(リッカート尺度)を用意。
「施設職員の態度」に関する質問項目
1 .施設職員の言葉づかいはていねいだと思いますか
2 .施設職員はあなたの話を十分に聞いてくれると思いますか
3 .施設職貝はあなたの気持ちを十分に理解してくれると思いますか
4 .施設職員は信頼できると思いますか
5.施設職員はあなたの他人に知られたくない秘密を守ってくれると思いますか
「施設での快適さ」に関する質問項目
6.施設内の照明は明るいと思いますか
7,施設内の気温は適切だと思いますか
8.施設内は過ごしやすい雰囲気になっていると思いますか
「入所による効果」に関する質問項日
9.サービスを利用して、体の調子が良くなったと思いますか
10.サービスを利用して、気持ちが明るくなったと思いますか
11.サービスを利用 して、周りの人たちと触れ合う機会が増えたと思いますか
12.サービスを利用して、周りの人たちと意欲的に触れ合うようになったと思いますか
「サービス(食事・入浴)内容」に関する質問項目
l3.食事の栄養バランスはとれていると思いますか
14.食事はおいしいと思いますか
15.安心して入浴ができていると思いますか
16.お風呂のお湯はきれいだと思いますか
17,お風呂は広くてくつろぐことができると思いますか
「施設に対する総合的満足度」に関する質問項日
18.いま利用されているサービスは、全体として良いサービスだと思いますか
19.サービスを必要としている人がいれば、この施設あるいはサービスの利用を勧めたい と思いますか
<参考>
施設入所高齢者のサービス満足度に関する研究 J-STAGE HPより引用
利用者アンケートの注意事項
顧客満足度を測る方策は利用者アンケートしかないといえます。
しかしながら、注意すべき点がいくつかあります。
入所(居)者のために「できることは自分でやってもらう」という自立支援への取り組みが、顧客満足度を下げる要因になることもあります。
「靴下を履かせてくれる親切な人と、履かせてくれない不親切な人がいる」という理解をされているケースがあります。
ケアの統一と自立支援の考え方の発信が重要です。
また、食事制限や水分制限をきっちりと管理することも、気ままな生活がしたい入所(居)者の不満につながることもあります。
「好きなもの控えてまで長生きしたくない」と言われます。
少しマイナス面のアピールになりますが「身体を大事にしないと病気が悪化しますよ」など、嫌なことが起こりうることを防いでいるとの説明を普段のケアに取り入れておきます。
入所(居)者ではなくご家族がご自身の印象で記入して、現実と乖離してしまう場合もあります。
本来は入所(居)者満足が目的ですが、要介護者のご家族への支援も重要なので、ご家族の意見も聞き取ることに意義があります。
施設職員の中にはこのようなアンケートを不快(不安)に思う人もあります。
しかしながら、アンケートの内容を通じて、施設が職員にどのような接し方を望んでいるかを周知する機会にもなります。
アンケートの主旨を丁寧に説明し、施設職員との信頼関係の構築には余念なきよう進めてください。
まとめ
50代、60代で他職種から転身された方の中には「顧客満足」を当たり前と感じる方も多いかと思います。
介護業界はもともと福祉系の業界で、その昔は行政による「措置」でした。
これが介護保険の導入によって「契約」となり、利用者側は介護事業者を選択できることになりました。
このような背景もあり、介護業界は「顧客満足(利用者満足)」についてまだ発達途上である感があります。
顧客満足度を測る唯一の指標として利用者アンケートの実施には大きな意義があります。
他職種からの転身という強みを活かして「顧客満足」を当然のこととしてとらえ、その計測結果を通じてより質の高いサービスの提供につなげていただきたいと思います。
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