50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、介護職を目指される方に向けて介護の仕事を紹介します。
この記事では有料老人ホームの施設長での経験を踏まえて「おひとりさまの終活に使える死後事務委任契約」を施設長の目線で触れます。
おひとりさまの終活相談を体験
混合型(健常者と要介護者が入居)の有料老人ホームで施設長をしていました。
健常者と要介護者がどちらも入居できることから、健常のうちに終の棲家(ついのすみか)として選択されます。
「子供が居ないから」、「子供の世話になりたくないから」、「親族が疎遠」など、様々な事情もありますが、「天涯孤独のおひとりさま」も一定人数いらっしゃいました。
さまざまなケースの終活のご相談に対応してきました。
いろいろな事情があり、一筋縄では解決できないのが終活です。
- 天涯孤独のおひとりさまのケース。
- 子供は居るが世話になりたくないから自分ですべてケリをつけたい、というケース。
- 子供が居なくて、何も頼めない法定相続人が居るケース。
- 法定相続人が存在するが音信不通のケース。
- 法定相続人が存在しないケース
相続人が居る場合と居ない場合で異なります。
複雑なケースは専門家にご相談ください。
<相談先(例)>
法テラス
参考:相続人の範囲と法定相続分 国税庁HP
死後事務委任契約が必要な場合
ご自身で自立されている間は、何でもご自身でできることでしょう。
しかし、死後については自身ではどうにもできません。
法定後見人を定めていたとしても、被後見人の死亡とともに契約は修了します。
死後の事務手続きは、本来の後見人の受託業務から外れます。
死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約で依頼できる事務は、主に以下のようなものがあります。
⑴葬儀に関するもの
・葬儀方式の指定
・埋葬方法の指定
・供養方法の指定
⑵行政手続きに関するもの
・死亡届の提出
・運転免許証や健康保険証の返還
・年金の受給資格の抹消
・固定資産税等税金の支払い
⑶生活に関するもの
・生前利用したサービス(病院・介護施設)に関する料金の精算
・居住する賃貸不動産の契約の解除や明渡し手続き
・水道光熱費等公共料金の支払いと解約手続き
・SNS等のアカウント削除
・パソコン、携帯電話の個人情報の抹消処理
・残されたペットを施設に入れるなどペットの環境整備
参考:死後事務委任 東京弁護士会HPより
事例
私が有料老人ホームの施設長として相談を受けたケースがありました。
80過ぎで持病が無い元気な女性でした。
ある日相談があると言われ居室に訪問してお話を伺いました。
相談内容
私は夫に先立たれて一人です。
今までの貯蓄、年金、夫の関係での遺族補償もあり、経済的には困りません。
財産管理や介護・医療の意思決定は甥がサポートしてくれますので心配はありません。
ただ、夫も私も実家とは疎遠になっているので、入るお墓がありません。
かといってお墓を立てても後をみる人が居ません。
夫の遺志で夫の遺骨は日本海に散骨しました。
〇〇県の△△川の河口付近です。
私も亡くなったら夫と同じところで散骨してもらって、同じ海で夫と再会したい。
これは老い先短い私の唯一無二の希望です。
でも遠方なので、忙しい甥にそこまで行って散骨してくれとは言いにくいのです。
お金を出すので引き受けてくれる人が居ないでしょうか。
財産も十分あるので、散財してもらってもいいから引き受けてくれる人を捜してほしい。
大まかにはこのような内容でした。
当時の反応
2000年代半ばのことなので、あまり高齢者の終活事例が積み重なっていない時代でした。
いろいろな人に相談しましたが、
「民法の規定で死亡すれば委任契約は終了するので契約が成立しない」
「費用が発生するから、相続人が契約無効にするだろう」
「散骨は埋葬法違反になるので書面で約束するわけにはいかない」
「散骨は死体遺棄にあたるので協力できない」
等のネガティブな意見ばかりで、なかなか解決の糸口がつかめませんでした。
なお、これらのネガティブな意見は、回避できる意見であることが後にわかりました。
餅は餅屋
最終的に葬儀会社に相談しました。
葬儀会社は高齢者施設に営業であいさつ回りに来られますので、施設長は常に何枚かの名刺を持っています。
そのうちの一社が「なんとかします」と言ってくださいました。
ご本人を紹介し、死後事務委任契約を締結されました。
ご本人は「老い先短い私の唯一無二の希望」が叶った、と涙ながらに喜んでおられました。
やっぱり「餅は餅屋」ということのようです。
まとめ
今回紹介した事例は特別な例ですが、人は皆それぞれなんらかの特別な事情を抱えています。
他にも制度が充実しているので網羅できそうですが、他の制度が及ばないスキマが存在します。
他の制度のスキマに「死後事務委任契約」がピタっとはまることがあります。
あまりメジャーではないこの制度も知っていただけたらと思って記しました。
本当に千差万別でそれぞれの人生があり、終活に向けて何らかの課題を抱えておられます。
その課題を解決して、安心して過ごしていただくことも施設長の役割です。
他業種からの参入でも50代、60代の実年世代の人生経験や年輪が役立つ場面です。
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