延命治療か自然死か、リヴィング・ウイルは終活で必須(施設長目線です)

豆知識(雑談)
三段壁の風景03(和歌山)


50代、60代の実年世代で定年退職や早期退職などで介護業界に転職し、介護職を目指される方に向けて介護の仕事を紹介します。

この記事では有料老人ホームの施設長で関連する経験を踏まえて「
延命治療を望みますか?リヴィング・ウイルは終活必須アイテム」というテーマで触れます。

いわゆる「延命治療を望むか、望まないか」という意思表示がテーマです。

体験の背景

混合型(健常者と要介護者が入居)の有料老人ホームで施設長をしていました。

2000年代の話なので混合型の事例がなく、ネット上にも情報が少ない状況でした。

要介護の方と健常の方が一緒に暮らすというモデルで運営していました。

今となってはそれがかなり困難を伴うことはわかってきましたが、当時は措置制度から契約制度に移行した直後であり新しいモデルとして各施設がしのぎを削っていました。

現代とは事情が異なる点があるかもれませんが、あらかじめご了承ください。

混合型有料老人ホームの特徴

健常者と要介護者がどちらも入居できることから、健常のうちに終の棲家(ついのすみか)として選択されるケースがあります。

「子供が居ないから」、「子供の世話になりたくないから」、「親族が疎遠」など、様々な事情もありますが、「天涯孤独のおひとりさま」も一定人数いらっしゃいました。

様々なケースの相談を体験

子供は居るが世話になりたくないから自分ですべてケリをつけたい、というケース。

子供が居なくて、何も頼めない法定相続人が居るケース。

法定相続人が存在するが音信不通のケース。

法定相続人が存在しないケース。

さまざまな相談を受けてきました。

遠縁でも相続人が居る場合と居ない場合で異なります。

複雑なケースは専門家にご相談ください。

<相談先(例)> 

     法テラス

参考:相続人の範囲と法定相続分 国税庁HP

終末期医療とは

「終末期」とは、以下の三つの条件を満たす場合を言います(※)。

1.複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること

2.患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること

3.患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること

※救命救急の場では発症から数日以内の短い期間で終末期と判断されることも多いのですが、癌や難病の末期などでは1~2ヶ月ということもあります。また、重い脳卒中後遺症などでは、数年前からいずれ死が訪れることが予測されることがあるものの、間近な死を予測することが出来るのは容態が悪化してからとなります。したがって終末期を期間で決めることは必ずしも容易ではなく、また適当ではありません。

参考:終末期医療に関するガイドライン 公益社団法人 全日本病院協会HPより

リヴィング・ウイル(終末期医療における意思表明)とは

終末期医療の段階では意識が無いことも想定されます。

そんな場合でもその方の意思に沿った治療が受けられるよう、文書で残すことが推奨されています。

具体的な事例では、終末期医療の段階になった場合に、① 輸液、② 中心静脈栄養、③ 経管栄養(胃瘻を含む)、④ 昇圧剤の投与、⑤(心肺停止時の)蘇生術、⑥ 人工呼吸器、⑦ その他(具体的に)の医療行為について、希望する、希望しない、わからない、を選択して記載して残すものです。

参考:終末期医療に関するガイドライン 公益社団法人 全日本病院協会HPより

リヴィング・ウイル(終末期医療における意思表明)がなぜ必要か

「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」という選択をされる方が増えています。

また、「少しでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしい」と望まれる方も一定数いらっしゃいます。

これらはまえもって意思表示をしておかなければ「延命治療」に傾くことがあります。

救急医療の現場では救命が使命なので、あらゆる手を尽くすうちに延命治療がスタートする場合があります。

あらかじめ書面での意思表示をしてくことをお勧めします。

書面が無い場合、医師としては訴訟リスクを抱えることになる場合があるので「延命治療」に傾くことがあります。

参考:終末期の意思決定ガイドライン 健康長寿ネットより

自然死を選択できなかった方

ご本人が遺言書を残していないため、遺言書を残すために延命治療されたケースに遭遇しました。

私の経験の中でも、忘れることができない、忘れてはいけない経験です。

詳細は別記事で触れています。

このこと以来、私は個人の信条として終末医療の意思表示を強くお勧めするようにしています。

迷った末に延命治療を選択された方

実子ではなく養子縁組の息子さんのケースでした。

施設におられて医師からは「治療により病気の回復が期待できないと判断する」という事実を告げました。

ご本人は意識が無い状態です。

「自然死」を選択されるか「延命治療」を選択されるか、息子さんに判断を仰ぎました。

「一緒に暮らしていた経験が無いから、そういう話はしていなかった」と言われ、実際に選択する場面に遭遇し、かなり悩んでおられました。

こちらも急かすわけではなく持ち帰って検討されることにありました。

翌日、悩んだ末に「治療継続をお願いします」というお答えが返ってきました。

施設側で治療を継続してくれる医療機関を探して、入院されることとなりました。

ご本人の意思が明確でなかったために、息子さんがおひとりで悩まれた末に出された結論でした。

自然死を選択して焦燥感に襲われた方

ご夫婦でお子様が無く老々介護の方でした。

夫が急病で入院され、妻が緊急ショートで施設入所されました。

夫が救急搬送された病院から電話があり「妻にすぐに来てほしい、一刻を争う」という連絡が入り、私が付き添いました。

病院に到着すると夫は意識がありません。

医師から妻に説明があり、「自然死」を選択されるか「延命治療」を選択されるか、の判断を仰がれました。

在宅のケアマンジャーも一緒に来られて、妻にやさしく説明されました。

妻は「夫が(終末期医療を)どう思っていたか、そういう話をした覚えはない。でも、仕方がないね。

寿命ね。自然(死)でお願いします」と言われ、施設に戻りました。

施設に戻ってしばらくは放心状態でしたが、次第に興奮してこられました。

「大変なことをしたかもしれない、夫の気持ちを確認してないのに、勝手に(自然死選択を)やってしまった」と興奮されはじめました。

私は居室にお伺いして長時間にわたってお話を傾聴しました。

これまで二人で生きてきたこと、何でも二人で相談してきたこと、夫が優しく自分が幸せだったことを繰り返し話されました。

そのうえで「最期にやらかしてしまった、夫がかわいそう、なんてことをしたんだ、あの世で合わす顔がない」と悔やんで興奮して室内をウロウロされます。

「でも、病院に行って治療の継続をお願いしても、あの夫が戻ってくるわけではない。夫にとって苦しいだけかもしれない」との葛藤も口にされます。

心を落ち着けていただこうと「長く痛い思いや苦しい思いが続くのは忍びない」、「奥様のお気持ちは伝わっています」となんども声掛けをしました。

この様子は波がありながらも、数日後に夫が亡くなるまで続きました。

ご本人の意思が明確でなかったために、妻がひとりでストレスを背負われた事例でした。

まとめ

最近は入所時点で「延命治療」や「心肺停止で発見時の対応」について確認をしている施設が多いと思います。

2000年代はまだ事例が少なく環境が整っていなかったので、そういう話は「縁起でもない」とご法度の時代もありました。

今もその名残で、高齢者の中には「終末期医療」の話題を避ける方が一定数いらっしゃいます。

「生きたいから、あらゆる治療を施してくれ」という意思を示される方もおられます。

反面「延命治療は望まない」ということもよく耳にします。

大切なことは、そういう話題を避けて通らずに書面で残すことです。

私の経験則でも、遺された方が大きなストレスに見舞われます。

高齢者自身の幸せ、遺された人の幸せを願って、終末医療の意思表示をお勧めしてきました。

高齢者は本当に千差万別でそれぞれの人生があり、終活に向けて何らかの課題を抱えておられます。


その課題を解決して、安心して過ごしていただくことも施設長の役割です。


他業種からの参入でも50代、60代の実年世代の人生経験や年輪が役立つ場面です。

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